障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2018年9月368号巻頭文

「共に」を打ち砕いた津久井やまゆり園事件、
      そこから私たちは何を考えるべきか

共同連代表・『福祉労働』編集長・東京都 会員  堀 利和

植松被告は津久井やまゆり園の重度重複知的障害者を殺したが、われわれはすでにかれらを地域社会から抹殺していた。

植松被告は津久井やまゆり園の重度重複知的障害者の命を殺したが、親・兄弟姉妹はかれらの名前を抹消した。

われわれの善意と恥の意識が、津久井やまゆり園の重度重複知的障害者を、被害と加害の関係性の中で殺した。

津久井やまゆり園のこの事件は、殺した者が殺され、殺された者が生き還るという輪廻の世界を打ち立てた。


被害者も加害者も社会から「他者」化された存在として、私たちは生きてきた。そのことをもう一度問い直し、かれらをどうやって我々の中に取り戻すことができるかである。この事件は私たちの70年代がまだ終わっていないことを意味する。

一つは、都立府中療育センター闘争である。センターは隣接の都立病院と地下でつながっていて、入所の際の要件は死亡後の「献体」、家族はそれを承諾してのことであった。当時の収容施設は、今は多少改善されたとはいえ、外泊はもちろん外出も許可が必要で、4人ないしは6人部屋でベッド、一日中どう過ごしていたかは推して知るべしである。三食の時間は決められ、入浴もせいぜい週2回。しかも同性介護の原則もなく、女性は処遇困難を理由に長い髪は許されなかった。

「鳥は空に、魚は海に、人は社会に」と、かれらは訴え、施設の改善と脱施設の自立生活を求めて闘った。それが、73年を前後して都庁第一庁舎前でテント座り込みを行った府中療育センター闘争である。スローガンは「施設解体!」。

もう一つは、「母よ! 殺すな」であった。障害児の我が子を殺した母親への減刑嘆願運動に対して、横塚晃一、横田弘をリーダーに神奈川県青い芝の会は告発糾弾闘争をもって応えた。殺された障害児に自らの存在を重ね、また「健全者幻想解体」とも訴え、75年に全国青い芝の会総連合会で採択された「行動綱領」では、
「われらは、自ら脳性マヒ者であることを自覚する 強烈な自己主張を行う 愛と正義を否定する 健全者文明を否定する 問題解決の路を選ばない」、とある。

さらに問われなければならないのは、「匿名」の問題を通した被害と加害の関係性である。家族会の前会長の尾野さんの話では、事件当日の朝居合わせた家族と理事長とで津久井警察署・県警本部に匿名を強く要請し、例外として認められたという。またこんな話もしていた。「事件のあくる日テレビに出たある父親に、出身地の田舎から『テレビに出るな』と電話があって、それ以来マスコミには出ていない」。

昨年2月24日に植松容疑者を起訴した横浜地検は、裁判において匿名を要請するとした。その根拠は、暴力団や性暴力被害者の二次被害を防ぐための措置を適用するというものであった。犠牲者の「二次被害」とは何か?

その限りでは、名前を抹消した家族は、犠牲者となった我が子に対しては加害者の立場にあるといえる。しかしその「加害者」の立場に立たされた家族もまた、実は被害者ではなかろうか。「世間」の被害者ではないかということである。家族の中に障害者がいることを隠さざるをえない、隠す、その「恥」の意識をつくったのはまぎれもない「世間」。太宰治は『人間失格』の中で、放蕩仲間の堀木から「女道楽ばかりしていては世間が許しませんよ」と言われ、世間とは何か、世間とは個人、世間とは「堀木、おまえだ」と書いている。このように、匿名の問題はブーメランのように世間の私に還ってくる。

そしてさらに重要なことは植松被告の動機。それを衆議院議長に宛てた「手紙」から分析すると、
第一段階では「障害者は人間としてではなく、動物として生活を過ごしております」「車イスに一生縛られている気の毒な利用者も多く存在し」と書き、「気の毒な」と同情の意すら示しているのだが、第二段階になると、「障害者は不幸を作ることしかできません」「保護者の同意を得て安楽死できる世界です」と論理を飛躍させ、最終段階では「理由は世界経済の活性化」「日本国と世界のために」「今こそ革命を行い、全人類のために辛い決断をする時」となって、動機が個人的感情から歪んだ正義感と使命感に、思想的確信犯へと自らを高め合理化したのである。そして「決行」

ヒトラーのゲルマン民族浄化の優生思想、『人口論』を書いたマルサスが自国イギリスの救貧法に反対して優秀な人類が生き残って劣性な人間は自然淘汰されるべきとした思想、植松被告の手紙の人道主義的方法とも言われる「安楽死」。だが実際はおぞましい行為に走ったのだが、ヒトラーにせよマルサスにせよ、こうした優生思想と能力主義と格差と排除とに、どう立ち向かうべきかが本物の共生派に問われている。

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