障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2016年12月350号巻頭文

「市民による就学相談」を行っています

宮城・共育を考える会  石川 雅之

「市民による就学相談会」という企画は、元々、東京の「八王子保育教育を考える会」がなさっていたものですが、それを私たちが盗用して仙台で始めたのが一九八五年。以後毎年一回秋に行っていますので、二〇一六年一〇月二二日に行ったのが三二回目になりました。

これは、「市民による」と銘打っている通り、教育委員会とは正反対の立場からの相談会です。教委が特別支援学校・特別支援学級をお勧めするのに対して、「みんなで地域の通常学級へ行こうよ」と呼びかけていく相談会です。

今年はほとんど対外的な宣伝をしなかったのですが、それでも六組の方が相談に訪れました。宣伝が不十分であるにもかかわらず毎年一定数の方が参加されるのには、理由があります。それは、仙台市教委が行う就学相談の会場へ私たちが行き、相談に訪れた方に会場の出入口でチラシを渡し、こちらの就学相談への参加を呼びかけているからです。それ故、相談対象者を翌年入学される方に限定しているわけではないものの、相談に来られる方のほとんどが、翌年小学校に入学予定の方です。

自分たちが就学相談を行っている会場の出入口で「共に育つ教育」の呼びかけが行われていることを、市教委のお役人さんたちが警戒しないはずがありません。さすがに妨害はしませんが、時々様子を見に来ますし、話しかけてくることもあります。

以前には、市教委の相談会で「この子の知能は三歳程度なので、養護学校(当時)に行くしかない」などと発言した市教委の担当者がいました。チラシを配っていた当会のメンバーに怒りを訴えていった親御さんがいたので発覚したことです。その発言についてその後の市教委との話し合いで私たちが厳しく問い詰めたこともあって、以後、市教委の側もあからさまに差別的な発言などはしないよう、慎重になっています。こんなふうに、市教委の相談会に出て行ってチラシを配ることは、そこでの内容を監視する効果も副産物として生み出しています。

ただ、仙台市の就学相談は丸四日間行われますので、その間そこに終日張り付いて来場者にチラシを渡し続けるのは、容易なことではありません。私たち「共育を考える会」も結成してから三〇年が過ぎ、会の中心メンバーが高齢化し体力がなくなってきています。そうした中にあって、チラシ配りの作業の大半は、「これが一番大事な活動だと考えている」という一人の女性の執念に支えられているというのが現状です。

いずれにせよ、このように仙台市教委が行う就学相談に来た方にチラシを渡して話をすることが、私たちの「市民による就学相談会」への参加につながっています。 さて、その内容です。

相談を受ける側は、障害を持つ子を通常学級に通わせてきた親、障害当事者、障害を持つ子どもを受け持ってきた教員・元教員、元小児科医、作業所の所長、行政書士などですが、相談に来られた方と対面するように並ぶわけではありません。話は順番に聞くものの、他の相談者とは別の部屋で個別に話を聞くというわけでもなく、混在して相談者は他の人の相談も聞いています。プライバシー上の問題はあるのかもしれませんが、お互いに共通した問題を抱えていることが多く、他の方の相談を聞く中で自分の心配も整理されてくるところがあるようです。

今回相談に来られたあるお母さんは「『特別支援学校が適当』と言われたのだけれど、地域の学校でなんとかやっていけないものかと考えている」と話しました。そこで、「学校教育に何を望んでいますか」と聞くと、「地域に根差して多くの人に子どもを知ってもらうことが願いです」と答えられました。 そうなのです。子どもの障害の有無や軽重に関わらず、否、あえて言えば、障害があるからこそ、地域の中でわが子のことを多くの人が知り、支えていってくれるような関係ができることこそ、大事なのです。

「来春に小学校に入学するのに、字を書いたり数字や時計を読んだりすることがまだできない」と言う方がいました。しかし、そういうことは、小学校で学ぶことであるはずです。何ができようと、何ができまいと、通うのは地域の学校で、みんなが行く教室である。そこからスタートして、何か困難が生じたら、それを解決するにはどうしたらいいのかを、その都度考えていけばいいのです。

「三つのことをいっぺんに言われたら、うちの子は対応できなくなってしまう」と心配されている方もいました。三つのことを一度に言って、それに子どもが対応できないとき、私たちがなすべきは、「三つのことを一度に言われてもできるようになりなさい。そうでなければ、通常学級に入れないよ」と子どもを脅迫することなのでしょうか。否、教員が一つ一つ順番に言ってあげればいいだけです。そうした工夫をするからこそ、「先生」なのではありませんか。

今回の相談者のうち五人の方は、市教委から「特別支援学級が相当」と言われた方も含めて、通常学級に入ることを希望していました(お一人が、「特別支援学校」判定のところを支援学級希望)。それが実現できるよう、様々な立場からの助言をさせていただきました。

これまでの私たちの就学相談会では、相談会に来てくれた方にアドバイスするところで終わってしまい、入学した後のフォローがほとんどできていませんでした。その点を反省し、今回の相談者の方々とは、来春の小学校入学後も何らかの形で関わりを続けていければいいなと考えています。

最初に書いた通り、私たちの行う就学相談会は、市教委が行う就学相談の場でチラシを配ることと一体のものであり、相談が来るのを待つのではなく、こちらから働きかけて、つながりを作っていこうという企画です。当事者親子が受け取る情報を「分ける側」たる行政サイドのものだけにせず、「共に学ぶ」という情報を伝えていくには、私たちが出て行くしかありません。なので、今後もしぶとくこの活動を続けて行くつもりです。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

巻頭 「市民による就学相談」を行っています / より早期からの分離が進む中で、共に学ぶことをどうめざすか / 全国一斉ホットラインを続けて来てこれからの相談活動を検討しています / ストップ! 個別カルテ 12・2文科省交渉報告  / 相模原障害者施設殺傷事件を問い続ける私の思い / 学校は相模原事件の被害者あるいは加害者を日々生み出していないだろうか / インクルーシブ保育とは「麦っ子畑保育園」 / 相談からコーナー『テストはいつも0点で大丈夫でしょうか』 / 運営委員会こぼれ話 その5 / 事務局から / 事務局カレンダー