障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2016年1月341号巻頭文

障害者差別解消法をどのように活かすか
~差別解消法、2016年4月施行~

東京都・運営委員  一木玲子

はじめに

なぜ差別解消法が必要なのか。それは、今までは差別とは何か、明確でなかったからです。差別のとらえ方が人によってちがう、自分では差別だと思うけど隣の人は違うという。「それは差別ですよね、おかしいですよね」と言っても、「差別ではないですよ」、「しょうがないじゃないですか」、「あなたのため、お子さんのためですよ」などと言われる。歯がゆい。悔しい。差別解消法で障害を理由とした差別の定義を規定し、障害のある人が差別と受けている現状を変える、差別をしない・させない共生社会を創ろうというのがこの法律の趣旨です。

では、この法律で差別とは何か。「差別的取扱いをすること」と「合理的配慮を提供しないこと」の二つです。そこで、この法律では、差別を解消するための措置として、①「差別的取扱いの禁止」(法的義務)と②「合理的配慮の不提供の禁止」(国公立学校は法的義務、私立学校は努力義務)としました。

教育はどう変わるのか

さて、この法の施行により、障害児をとりまくインクルーシブ教育に関する問題はどう変わるのでしょうか。まず、普通学級への就学についてみてみます。

差別解消法の文科省の対応指針を見ると、「1不当な差別的取扱いの具体例」として「…受験、入学、授業等の受講や研究指導、実習等校外教育活動…を拒むことや、これらを拒まない代わりとして正当な理由のない条件を付すこと」と記載されています。ここまで読むと、おや?と少し笑顔になります。ですが、「2不当な差別的取扱いに当たらない具体例」の中に「障害のある幼児、児童及び生徒のため、通級による指導を実施する場合において、また特別支援学級及び特別支援学校において、特別な教育課程を編成すること」と書かれているのです。ここで顔が曇ります。障害者権利条約では、障害を理由として区別・排除・制限することを差別と定義しています。ですが、文部科学省は、区別は差別ではないという見解のもと「インクルーシブ教育システム」を導入しました。ここが文科省の砦のようです。分けられた場を無くしたくない文科省は、障害者権利条約を曲解し、特別支援学校や特別支援学級そして通級などの制度は差別ではないと、この法律でも主張しています。ですが、よく読むと、ここでは「特別な教育課程を編成すること」は差別ではないと書かれているだけです。編成することは学校や行政の勝手です。編成されたからといって子どもがそこに在籍する義務はありません。正直に言うと、普通学級への就学に関してこの法律により劇的な転換がなされる効果は見えません。でも、入学の拒否は差別としっかりと書かれています。障害者基本法第16条や、就学する場の決定に際して「本人や保護者の意向を最大限尊重し」と書かれている平成25年655通知と共に、普通学級に就学・在籍するために闘う根拠法が一つ増えたと言えるでしょう。

付き添いなどはどう変わるのか

次に、付き添いなど、普通学級や地域の学校に在籍するための整備(合理的配慮)が保護者に強いられている状況はどう変わるのでしょうか。合理的配慮とは、障害のある者が障害のない者との平等を確保するための調整や変更です。障害のない子どもが普通学級や地域の学校で学習をしているとすると、障害のある子どももおなじくそこで学習をする権利があります。条件が整わないから、前例がないからなどという理由で、参加を拒否され、合理的配慮の提供は保護者の責任にされてきました。今後はそれは通用しません。公立学校や教育委員会が合理的配慮の提供をしないことは差別なのです。

昨年末の文科省対応指針案パブリックコメントの後、対応指針の確定版では、以下の文言が追加されました。今後、学校や教育委員会での交渉に際して使える文章です。今のように、参加や合理的配慮の提供を無下に頭ごなしに拒否することは許されなくなります。

「…個別の事案ごとに具体的場面や状況に応じた検討を行うことなく、抽象的に事故の危惧がある、危険が想定されるなどの一般的・抽象的な理由に基づいて、財・サービスや各種機会の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯などを制限する、障害者でない者に対しては付さない条件を付すなど障害者を不利に扱うことは、法の趣旨を損なうため、適当ではない。」(第2,1⑵正当な理由の判断の視点)

「…過重な負担については、…個別の事案ごとに具体的場面や状況に応じた検討を行うことなく、一般的・抽象的な理由に基づいて過重な負担に当たると判断することは、法の趣旨を損なうため、適当ではない。」(第2,2⑵過重な負担の基本的な考え方)

障害者への拒否感といかに対峙するか

さて、では、差別にあったときにどうするか。法施行後、自治体には相談窓口として障害者差別解消支援地域協議会が設置されます。そこに相談に行くことができます。ただし、この協議会は既存の相談・紛争解決制度を活用するとされており、行政から独立した第三者機関として設置されていないので、解決するには不十分です。一つ言えるのは、今までの交渉が、窓口は教育委員会のみで閉じられたものであったことを考えると、風穴が開かれたという意味はあります。教育委員会でまかり通っている摩訶不思議な「常識」が少し揺らぐ機会となるかもしれません。差別解消法はこれから育てて行かなくてはならない法律です。個人で頑張るのではなく、障害者差別解消条例を作った団体や、今から作ろうとしている団体と相談・連携しながら粘り強く交渉を続けたいです。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

●巻頭 障害者差別解消法をどのように活かすか~差別解消法、2016年4月施行~/「第14回 子どもの権利条例東京市民フォーラムのつどい~『多様な教育機会確保法』の意義と課題を考える集会~」に参加して/災害と障害者 日常生活の中に潜む問題が顕在化する時 そして教訓を活かした復興とは/普通学校もあかんねん その14/11・7えん罪野田事件の再審・無罪をめざす集いの報告/●相談からコーナー 通知表の評定欄に何も書いてないのですが/「障がい」という表記は医学モデル?!/障害児を普通学校へ・全国連絡会販売書籍等一覧/文科省交渉・交流会・世話人会・総会についての予定とお願い/事務局から/事務局カレンダー