障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2014年9号 328号巻頭文

子どもの権利条約批准20周年

〜障害者権利条約の批准であらためて求められる教育のあり方の包括的見直し

ARC代表 平野裕二

(1)国連・子どもの権利条約批准20周年

 1989年に採択された国連・子どもの権利条約を日本が1994年に批准して、今年で20年になる。批准の年に生まれた子どもはすでに成人に達する計算である。

条約は障害児の権利に関する独立条項(23条)を置き、障害児が「尊厳を確保し、自立を促進し、かつ地域社会への積極的な参加を助長する条件の下で、十分かつ人間に値する生活を享受すべきであること」を明確に認めた。条約の実施状況を監視するために設置されている国連・子どもの権利委員会も障害児の権利にはとくに注意を払っており、1997年にはこのテーマに関する「一般的討議」を開催して一連の勧告を採択したほか、2006年9月には「障害のある子どもの権利」に関する一般的意見9号を明らかにしている。

しかし、特別支援教育の導入など一定の変化があったとはいえ、統合/インクルージョンを基調とする条約の理念が日本で十分に実現されてきたとは言いがたい。

このことは、国連・子どもの権利委員会による日本の報告書審査でも繰り返し指摘されてきた。とくに第3回審査(2010年)では、「必要な設備および便益を用意するための政治的意思および財源が欠けていることにより、障害のある子どもによる教育へのアクセスが引き続き制約されていること」も含めて厳しい懸念が表明され、9項目からなる詳細な勧告が行なわれている(パラグラフ58・59)。インクルーシブ教育についてとくに触れた勧告は次のとおりである。

「(e) 障害のある子どものインクルーシブ教育のために必要な便益を学校に備えるとともに、障害のある子どもが希望する学校を選択し、またはその最善の利益にしたがって普通学校と特別支援学校との間で移行できることを確保すること」

また、「意見を聴かれる子どもおよびその親の権利の尊重を促進すること」等を目的とする意識啓発キャンペーンの実施も勧告されており(パラグラフ59(c))、基本的には、障害児とその保護者が普通学校・学級への就学を希望する場合にはその希望に応じることが求められている。受け入れ態勢が整わないなどの理由で普通学校への就学を拒むこと、保護者によるつきそい等を受け入れの条件とすることなどは、基本的には認められないと理解するべきである。

(2)国連・障害者権利条約の批准

一方、障害者基本法の改正、障害者差別解消法の制定などの立法措置を経て、今年(2014年)1月には日本も国連・障害者権利条約を批准した。

同条約の監視機関である国連・障害者権利委員会はすでに活動を開始しており、日本も同委員会に対して2016年2月までに第1回報告書を提出しなければならない。委員会は、たとえばスペインに対して、「合理的配慮の否定は差別であること、および、合理的配慮を行なう義務は即時的に適用されるものであって漸進的実現の対象ではないこと」を指摘したうえで、「障害のある子どもの親が教育のための費用または普通学校における合理的配慮措置のための費用の支払いを義務づけられないことを確保すること」などを勧告しており(2011年)、日本の障害児教育のあり方についても厳しく吟味されることになろう。

しかし、同条約は障害児だけに関わるものではない。たとえば教育条項(24条)の1項(a)では、教育の一般的目的のひとつに次の内容が挙げられている。

「人間の潜在能力並びに尊厳及び自己価値に対する意識を十分に開発すること。また、人権、基本的自由及び人間の多様性の尊重を強化すること」

傍線部は、社会権規約や子どもの権利条約の教育目的条項には含まれていなかった要素である。子どものセルフエスティーム(自尊感情)を十分に育めず、一方で強い同調圧力を生み出していると指摘されることが多い日本の教育にとって、この規定はきわめて重要な意味をもつ。このような視点から、日本の教育のあり方をあらためて包括的に見直していくことが必要である。

◆ARCは筆者が1990年に創設した団体で、Action for the Rights of Children(子どもの権利のための行動)の略。
◆本稿で紹介している子どもの権利委員会・障害者権利委員会関連資料の日本語訳は筆者のウェブサイトを参照。 http://www26.atwiki.jp/childrights/

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2014年9月328号目次
巻頭 子どもの権利条約批准20周年
~障害者権利条約の批准であらためて求められる教育のあり方の包括的見直し
・事務局カレンダー
・普通学校もあかんねん その1
・ウエブでのデータ公開、はじめました
・インクルーシブ教育データバンク(略称、インクルDB)活動報告
・さっぽろからはじめよう 真の高校集会
・つきそいなくそうNEWS vol.3
・福島の三年目はどうなっているか
・書評 ふくさようのないくすり 「ふしぎなともだち」たじまゆきひこ作
・相談からコーナー 「わかる」、「達成感」ということは?
・お便りから
・事務局から