障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2023年10月418号巻頭文

国連勧告から1年

東京都・運営委員  名谷和子

もう一年が過ぎてしまった…

昨年9月の全国連の会報には、「国連障害者権利条約の総括所見が出ました! 権利委員に私たちの思いが届きました! ジュネーブに派遣団を送った成果が反映された すばらしい内容です!」と書かれた号外が挟みこまれました。

それから数日後、当時の文科大臣が「特別支援教育を中止することは考えていない」と勧告を無視するような発言をし、全国連はすぐに抗議文を出しました。その後、12 月には、ジュネーブで共に行動した団体とともに、総括所見の内容を真摯に受け止めその内容に沿ったインクルーシブ教育に関する教育政策の見直しと法改正を着実に実施し ていくことを求めた要請行動を文科省に対して行い、院内集会を開催して「国連勧告実施・インクルーシブ教育実現ネットワーク」を立ち上げました。年明け3月には、 「総括所見に基づきインクルーシブ教育の実現を求める要請書」をもとに文科省と交渉も行いました。しかし、文科省の姿勢は変わっていません。

次の国連審査は2028年です。良い勧告を引き出すことができたのに、その勧告をどう実現していくか、全国連としては3月以降足踏み状態のまま、6年間のうちの1年が 過ぎてしまいました。みなさんからの熱い思いを集めたカンパでジュネーブへ行った派遣団の一人として、どうしよう…どうすればいいのか…、そんな思いでこの原稿を書く ことを引き受けました。

勧告の力は大きい

とは言え、何もしてこなかったわけではありません。勧告が出された直後、マスコミはこれを大きく取り上げ、全国連も多くの取材を受けました。報告集会を主催しただけ でなく、様々な団体や地域の会の集会に参加して報告もしてきました。これまで関わりのなかった団体から機関紙への原稿依頼もありました。本号で五十嵐玉枝さんが報告され ていますが、大学で学生に話もしています。

他の団体も活発に活動を重ねています。勧告を特集した冊子が出され、障害者権利委員を招聘しての院内集会も数回開催されています。東京大学大学院教育学研究科附属バリ アフリー教育開発研究センター長の小国喜弘さんが主催する「東京大学インクルーシブ教育定例研究会」は、数回にわたって勧告を大きく取り上げ、その後も関連した研究会を 続けています。5月に東京都の国立市は、同研究科とフルインクルーシブ教育の実現をめざして連携協力を締結したことを発表しました。8月にはDPI日本会議も「フルインク ルーシブ教育事業に関する連携協定」を結んだと発表しました。

世田谷区では

私が活動をしている世田谷区でも勧告は大きな影響を与えています。昨年9月の区議会において、インクルーシブ教育の実現を政策の柱にしている区議からの「区は勧告をど うとらえるか」という質問に対して、保坂展人世田谷区長は「(前略)国連障害者権利委員会による勧告と『私たちのことを私たち抜きで決めないで』というこの大変有名にな った国連で論議してきた障害者権利条約の合言葉を十分踏まえて、勧告の趣旨をとらえながら、インクルーシブ教育や地域共生社会の実現に全力をあげてまいります」と答弁し ました。また、11月には教育長が、「勧告は教育制度そのものに関わる改革を意味し国としての対応を迫まられるものですが、一朝一夕にできるものではないと認識しています。 子どもたちは日々成長しているので、世田谷区としてはできることから一歩ずつでも前へ進めていきたいと考えてます」と答弁しています。

これらの答弁と現場とでは温度差はありますが、次期教育振興基本計画の素案には、これまで、特別支援教育の中にあったインクルーシブ教育に関する記述が独立して 「インクルーシブ教育の推進」として新たに柱立てがされ、すべての子どもが共に学び共に育つインクルーシブ教育が明記されています。

足踏みをしていてはいられない

このような動きを起こさせた勧告の力は大きく、意義のあるものです。そして、そのような勧告を他の団体と共に引き出せたことへの自負と責任を感じています。足踏みをし てはいられません。

壁は厚く課題は山積みですが、私自身はこの1年間で改めて学んだことがあります。それは、インクルーシブ教育は単に障害のある子の教育方法の問題ではなく、社会正義の問 題であり人権の問題だということです。人権モデルに基づいたインクルーシブ教育は、日本の学校の能力主義の流れを変え、すべての子どもたちの学校教育を豊かにしていき、平 和で多様な人々が共生する社会の礎となるということです。

次号で報告されますが、全国交流集会(広島)の第5分科会では、「国連勧告をこれからの運動にどう活かしていくか」というテーマで活発な論議がされました。勧告を学ぶ ・広める段階から、どう実現していくかの段階に進まなくてはなりません。そのためには何をするのか、何ができるのか、全国の方からの様々な意見も参考にして、熱い思いを具 体化していくための論議を運営委員会でしていかなければと思っています。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

●巻頭国連勧告から1年/●報告~私たちの目指す教育は~学習会「インクルーシブ教育」は共に学び育つ教育か/~インクルーシブ教育とは~大学実践ゼミに呼ばれて/ カナダ・ブリティッシュコロンビア州の「インクルーシブ教育」体験記①/定員内不合格者数(全国調査結果)に対する取り組みを!/運営委員からホームページ刷新のめざすもの /●「相談から」コーナー発達診断で言葉のおくれを言われたのですが…/各地の集会・相談案内/事務局から/事務局カレンダー