障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2023年2月3月412号巻頭文
全国連が求めた内容が反映されている国連勧告の実施を!
障害児を普通学校へ・全国連絡会事務局
2022年8月、日本に対する初めての障害者権利委員会の審査がジュネーブで行われました。
全国連は権利委員会にパラレルレポートを出し、ジュネーブに派遣団を送り権利委員に日本の分離教育の実態を訴えました。9月9日に出された勧告には、全国連が求めた内容が入っています。ところが、勧告が出されたすぐの9月13日に「多様な学びの場において行われる特別支援教育を中止することは考えておりません」との文科大臣の発言がありました。全国連には、文科大臣発言に対する怒りの声がよせられました。国連勧告実施・インクルーシブ教育実現ネットワーク準備会に参加し、要請行動や院内集会で「国連勧告を受け止めよ」と要求しました。
2023年の運動方針(案)は、国連勧告を機に「障害児を普通学校へ」をさらに広めていこうと検討を重ねました。〈「多様な学びの場」での「適切な教育」〉が乳幼児期からの相談で勧められ、地域の学校への就学が閉ざされ分離教育が強化されています。また社会のデジタル化に対応した運動の在り方も検討課題です。
こうした状況の中での、文科省交渉と総会のお知らせです。
この2、3年のコロナ禍で、文科省交渉や総会への参加の呼びかけが遠慮がちになりました。今年は多くの皆さんの参加を呼びかけます。総会では、顔を合わせ、声を聞き、意見を交わし、国連勧告を実のあるものにしていきましょう。
皆さんのご参加を願っています。詳細はチラシをご覧ください。
文科省交渉・世話人会
3月17日(金)参議院議員会館
13時 参議院議員会館ロビーに集合 通行証配付 13時15分開場 文科省交渉
世話人会 交渉終了後~17時30分
総会・学習会
3月18日(土)江戸川タワーホール船堀
10時~12時半 総会 13時半~16時 学習会
2023年度 運動方針(案)
障害児を普通学校へ・全国連絡会運営委員会
はじめに
「国連勧告のインクルーシブ教育」を国の行動計画に
2014年、日本は国連障害者権利条約を批准しました。この条約では、各国の取り組み状況を国連の障害者人権委員会が定期的に審査し、勧告を出すことになっています。そして2022年8月、日本に対する初めての審査がジュネーブで行われました。9月9日に出された勧告には、全国連が求めた内容が反映されていました。
これまで全国連は、国連障害者権利委員会に日本の実態を訴えるパラレルレポートを出そうと「パラレポ委員会」を立ち上げ作成し提出しました。2021年には「共に生きる社会をめざして 障害者権利条約が規定するインクルーシブ教育の実現を求める請願」を国会に提出しました。署名は全国各地の団体および個人の皆さんから多くの賛同が得られました。(署名数10、958筆 賛同団体33団体 署名紹介議員15名)
そして2022年8月ジュネーブに7名の派遣団を送りました。会員をはじめ賛同してくださる方々から予想を上回るカンパ(294万円)が集まりました。派遣団には当事者の親子3組も参加し、障害者権利委員にプライベートブリーフィングやロビーイングを精力的に行いました。こうした活動が勧告に反映されたのだと思いました。帰国後は多くの取材も受けました。
ところが、勧告が出されたすぐの9月13日に文部科学省永岡大臣から「多様な学びの場において行われる特別支援教育を中止することは考えておりません」という発言がありました。全国連には、文科大臣発言に対する怒りの声がよせられました。
全国連は、国連に「パラレルレポート」を提出した団体とともに「国連勧告実施・インクルーシブ教育実現ネットワーク(準備会)」として、文科省に要請書を提出し、文科省交渉・記者会見や院内集会を通して、文科大臣の発言を撤回することを求めました。文科省は「特別支援教育を中止することはない」を繰り返すばかりです。
2023年度も国連勧告の実施を障害者権利条約の締約国である日本政府・文科省に強く求めていかねばなりません。
差別選別教育から 共に学び・育つ学校へ
文科省の資料によると、特別支援教育を巡る状況の変化とし「少子化により学齢期の児童生徒の数が減少する中、特別支援教育に関する理解や認識が高まり通常の学級に在籍しながら通級による指導を受ける児童生徒が大きく増加している。また、特別支援学級や特別支援学校に在籍する児童生徒の数も増加している」としています。昨年末には通常の学級における発達障害のある児童生徒は、この10年間で6・6%から8・8%になったと大きく報道されました。さらに日本語指導が必要な児童生徒や不登校の児童生徒も増加傾向にあるといいます。全国連は「特別支援対象児は増えている」でなく、文科省の方針として「増やしている」ととらえています。
文科省は、2020年代の「令和の日本型学校教育」として「新しい時代の学びを実現する」を進めています。新しい時代の学びの姿は、1人1台の端末環境のもと、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実だそうです。「新しい時代の特別支援教育の在り方」も出されています。それは「子供一人一人の教育的ニーズを把握し、持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するため、適切な指導及び必要な支援を行うものである」としています。新しい時代というものの、障害を医学モデルに基づいて、「教育的ニーズ」や「適切な支援」や「多様な学びの場」は変わらず、従来どおりの分離教育をすすめていくものです。
学校教育を、「差別と分離の場」から「共に学び・育つ場」にしなくてはなりません。
今年度の運動方針(案)も三つの柱【インクルーシブ教育を求める運動・就学についての相談や支援の活動・活動する組織の運営】で進めていきます。
1.インクルーシブ教育を求める運動について
① 文科省に 国連の総括所見に基づいたインクルーシブ教育を求めていきます
2023年度は国連の総括所見を日本政府が実施することを粘り強く求めていきます。とりわけ、就学拒否禁止、合理的配慮の提供、高校定員内不合格の解消は緊急の課題です。
国連勧告が出されたことは、私たちの運動にとって大きな意味があります。そして今が国連勧告の実施を訴えるその時だと思います。文科省交渉や国会議員への要請行動、マスコミなどを通じて情報を広めていきます。そして市民にもいろいろな場をとおして、どの子も地域の学校へ行く権利があるのなら、障害のある子も地域の学校へ行く権利があることを伝えていきます。
社会では、障害の克服や適切な教育が必要だとする考え方が多数です。インクルーシブ教育と言っても理解されません。生後からの育児相談そして早期からの就学相談で、障害の克服を主とした相談が行われ特別支援教育が進められています。
この1年間を見ても、共に学び・育つ教育ではなく、分ける教育が加速されています。障害のある子が地域の学校で学ぶことが当たり前だと受け止められるようにしていきましょう。
② 高校の定員内不合格の解消
全国連は高校の定員内不合格を問題とし、文科省に定員内不合格者数の実態を示すようにと要請してきましたが、応じませんでした。そこで2022年度は会員の皆さんに協力をお願いし、独自の実態調査をしました。そのうえで再度文科省に調査依頼の交渉をしました。この交渉で「定員内不合格者数を調査中で、年内に結果を公表する」との回答がありました。これまで調査を依頼しても返答がなかったので、今回の調査の目的を問いました。調査は高等学校の入学者選抜の改善を目的としたもので、その中に定員内不合格の調査が入っているとのことでした。合格判断は「校長判断である」との態度は変わりませんでした。
今回の文科省調査(2022/12/27公表)の数字を活用し、定員内不合格をなくす取り組みをさらに進めたいと思います。また今年の高校入試で各地の取り組みに活用してほしいと思います。
引き続き、文科省に定員内不合格をなくすこと、各都道府県教育委員会に働きかけることを要請していきます。98%の子どもが高校に行く現在、高校は「適格」者だけが行くところではありません。高校全入・無償化の動きの中で、障害のある者だけが不合格は差別です。
③第21回障害児を普通学校へ・全国連絡会 全国交流集会in広島を開催します
2022年度は「障害児の高校進学を実現する全国交流集会」を福岡県の久留米市で共催しました。この集会は2020年開催予定でしたが、コロナ禍の状況で延期となったものです。30の都道府県から240名の参加(ズーム参加含む)がありました。当日は台風が接近し、新幹線も西鉄電車も運休となりましたが、現地実行委員の皆様のご尽力により、有意義な集会となりました。そして交流集会の意義を再認識しました。
今年度は「第21回障害児を普通学校へ・全国連絡会 全国交流集会」を広島で開催します。2023年9月17・18日にワークピア広島で行う予定です。「共育・共生をすすめる広島県連絡会議」の方たちが実行委員会を立ち上げ、準備を進めています。
近年コロナ禍でズーム参加が増え、会場参加の方は少なくなっています。全国交流集会で顔を合わせ、声を聞き、想いを共にすることから、次の一歩が踏み出せます。全国交流集会には、より多くの皆さんの会場参加を呼びかけます。
「障害児の高校進学を実現する全国交流集会」については、これまで各地で実行委員会が開催する集会に、全国連として共催してきました。今後も開催が予定されれば、共催していきます。
④共生社会についての現状や問題意識を共有するため学習会を継続します
2022年度はコロナ禍とジュネーブ派遣とその報告集会そして文科省交渉などの取り組みが多く、学習会が実施できませんでした。今年度はミニ学習会も取り入れ、障害者権利条約が規定するインクルーシブ教育をテーマとし、多くの方に伝えていきます。
主な課題は、障害者差別を権利条約にそって考えること。文科省の「障害に応じた適切な支援」や「多様な学びの場」を問い直し、「障害の人権モデル」に対応した教育内容を追求します。
また、2021年の「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議報告」を基に文科省の方針を批判的に検討する学習会を企画し、文科省のインクルーシブ教育システムや次々と出される施策の問題点を洗い出します。
⑤共生社会の実現に向けて他団体との交流をはかります
ジュネーブでの国連障害者権利条約の日本審査には日本の現状を訴える団体が多く参加しました。この団体の方たちとの新たな交流がありました。その結果、国連勧告の報告集会への多くの参加があり、文科大臣発言にも多くの団体から抗議文が出されました。また、国連にレポートを出した団体と「国連勧告実施・インクルーシブ教育実現ネットワーク」を立ち上げました。勧告実施を求める文科省への要請書にも116団体の賛同がありました。こうしたつながりをさらに深めていきます。
昨年に続き、津久井やまゆり園事件の問題にかかわり続けている団体、DPI日本会議、日本教職員組合との交流を継続します。
2.相談・支援の活動について
①相談・支援は、全国連にとって基本的な活動です。障害児を普通学校へつなげる情報を届ける手立てを追求します
文科省の「切れ目のない支援」と「特別支援教育への勧め」により、普通学級への就学希望が減少しています。普通学級就学を考えられなかったという相談も増えています。相談の内容は、小学校就学時・中学校への進学時が多いです。普通学級の在籍中に特別支援学級を勧められる相談も多くなっています。高校入学相談も増えてきました。
2022年度に特別支援学校設置基準が施行され、特別支援学校が増えています。各地の教委の就学相談は早期発見早期治療により乳幼児から特別支援教育を勧める内容が多く、子どもを分ける教育が加速されています。在学中も「発達障害児8・8%報道」にみられるように普通学級の子どもから障害児を探し出し、分けて教育することが誘導されています。
近年はホーページを見ての相談が多く、メール相談も増えてきました。ネットを活用した相談の在り方が必要となってきています。知り合いからの紹介数は減っていますが、やはり口コミや紹介等のリアルなつながりを大切していく必要があります。
コロナ禍で、各地の教委主催の一斉就学相談会がなくなり、個別の就学相談に変わりました。2023年度は、新たな取り組みを工夫して情報を届ける手立てを考えていかねばなりません。
就学時ではなく幼児期から「共に育ち共に学ぶ」情報を伝える取り組みも始めなければなりません。幼稚園・保育園などへの就園相談の体制を検討し、相談を受けていきます。
事務所に届く相談はまず当番が対応し、相談担当者あるいはホットライン先や各地の世話人に相談の引き継ぎをお願いしています。相談担当者に直接相談されるものもあります。相談者からの要請に応じて全国連として要望書の提出や要請行動に同行する等の協力もしています。今年度も引き続き相談活動を続けていきます。
②普通学級で学ぶ情報を広めていきます
「障害児を普通学級へ」の呼びかけをもっと多くの方たちに届けられるよう工夫しなくてはなりません。まだまだ障害児には特別な支援がある特別支援教育が必要だとする考え方が多いのが現状です。
2022年度は、憲法集会など市民が集まる集会に参加し、チラシを配ることを試みました。こうした市民集会に出向いて広報する手立ても取り入れていきます。数年前から「就学前パンフレット」の改訂を計画したのですが、進んでいません。取り組みを進めます。
会報とリーフレットとホームページに加えて、さらに情報を広めていく新たな発信として、フェイスブックやインスタグラムの活用も始めています。今後更なる充実が求められています。
③各地からよせられる就学闘争を支援していきます
神奈川県相模原市の人口呼吸器ユーザーの佐野さんの普通学級への転籍実現に向け市教委や県教育長に要請書を提出し、集会に参加してきました。今年度は国連勧告にある就学拒否をさせないように取り組みをしていきます。同様に各地からよせられる就学拒否に対しては、支援団体と連絡を取りあい就学闘争を支援していきます。
3.活動する組織の運営について
①会員数はほぼ現状維持です。積極的に入会を呼びかけていきます
全国連の活動を継続し、発展させていくために会の組織は重要です。現在会員は632人(2023年1月)です。会員自身の高齢化による退会や子どもの卒業を機に退会そして特別支援学級や学校への転校による退会の傾向は続いています。
若い世代の方たちの加入も広がってきていますが、まだまだです。当事者の親はもちろん、現職の教員・保育士・相談員・支援員の加入をもっともっと多くしなければなりません。今年度も相談時や全国交流集会、そして新たな機会を見つけて積極的に入会を呼びかけます。
②10回の会報発行をめざします
2022年度も前年に続いたコロナ禍のなか、10回の発行ができました。紙ベースの会報の役割も大切なものですが、情報がデジタル化され、メールやオンラインでの交流が多くなった現在、こうした通信方法を使った会報も模索します。
今年度も内容の充実した会報の発行をめざします。内容は、これまでと同様に教育行政に関する情報提供や問題の共有・各地の取り組み・親や当事者からの報告そして相談活動の状況を重視していきます。会員からの投稿も募ります。
③ホームページを充実し、活用をはかります
ホームページが充実し、活用されてきました。ホームページから知ったという相談や集会の情報を得たというメールも増え、「障害児を普通学校へ」という運動や取り組んでいる団体があることを知ったという声も届いています。
今年度も新しい情報を、会員はじめ多くの皆さんに届けられるように様々な取り組みをします。
SNSを使いこなせる会員の方に運営委員としての参加を募ります。
④オンラインの活用を進めます
全国連の組織運営は、月に1回の事務局会と運営委員会、年1回の世話人会と総会で成り立っています。日常の活動ではメーリングリスト等を通して交流や連絡を取り合っています。ここ2年程前から、事務局会や運営委員会はズーム参加ができるようにしました。学習会や集会もオンラインで参加できる体制を試みています。操作できる方の協力を呼びかけていきます。
事務所の運営は会員の当番体制であたっています。課題は事務局の世代交代です。全国連の運動を次世代にどうつなげるのかが、引き続き大きな課題です。
他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。
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