障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2022年5月404号巻頭文
学校の中の差別
三重県・会員 栗田季佳(三重大学教員)
障害者権利条約は障害に基づくあらゆる差別を禁じ、他の者との平等を基礎とした障害者の権利を認めている。教育においてはインクルージョンを原則とし、合理的配慮が提供 されたワントラック制(すなわち普通学級)を国は整備しなければならない。日本が締約国であるならば、車いすに乗った子どもや言葉を話さない子どもが当たり前に在籍し、手話 が飛び交い点字の本が開かれた学級風景が見られるはずだ。しかし実際に普通学級に在籍する障害のある子どもは、特別支援学校相当とされる障害に関して、全国の小学生の内お よそ1300人とごく少数に限られている(平成30年度調査結果─文科省令和元年度特別支援教育資料より─この調査のデータで概況を試算すると相当とされる中のおよそ2%で しかない)。
特別支援教育の対象者は増加の一途をたどっているが、人々を特別支援教育へといざなう引力とは何であろうか。私たちは2015年に文部科学省が初めて障害児への付き添い 調査を実施した年、調査に含まれない付き添いの実態を追うべく、兵庫県で調査を実施した。その結果、送迎や校外学習、介助者がいない時など保護者らが担う付き添いは広範に 渡り、登校から下校まで終日の付き添いを行う人も多くいた(結果は公教育計画研究第9巻に掲載。全国連のメンバーに力になってもらい、兵庫県教組にご協力いただいた)。
付き添いの解消を訴える保護者はモンスターペアレント扱いされ、結論の変わらない話し合いが何度も繰り返させられ疲弊し、行事参加を拒否されたり付き添わざるをえない 状況をつくりだされたりするなど、さらに過酷な対応を学校側からされていた。その向こう側には、「普通学級に入れてもらったから」「やめたいと言ってもいいのかな。子ども に何かされないだろうか」と疑問や理不尽さを押し殺しながら、沈黙する無数の保護者の存在がある。
「そこまで頑張らなければいけないのなら」と支援学校を選択する保護者らがいるのは想像に難くない。アントニオ・グラムシは、支配者側の都合のよい方向を自ら選ぶような 仕組み、合意に基づいて支配していくことをヘゲモニーと呼んだ。付き添い然り、小中学校でのいじめの辛い経験を胸に特別支援学校を選択する子どもの姿が浮かぶ。特別支援教 育を充実させればさせるほど、障害の有無による世界の隔たりは深くなり、障害のない者ら中心の社会の営みは維持されていく。頑張らなければ入れない、そこにいられない「普 通」学級とは何であろうか。
文科省の調査後、医療的ケアの実施に関する検討会議を経て「保護者の付添いの協力を得ることについては、本人の自立を促す観点からも、真に必要と考えられる場合に限るよ う努めるべきである。やむを得ず協力を求める場合には、代替案などを十分に検討した上で、真に必要と考える理由や付添いが不要になるまでの見通しなどについて丁寧に説明す ることが必要である」とする報告書がまとめられた。付き添いが望ましくないと述べられている点には一定の意義はある。しかし、付き添いは自立という教育目標の問題ではなく 、合理的配慮、つまり差別の問題である。「協力」を求めることはお門違いであるし、情の入り込む余地を作るべきではない(合理的配慮という言葉も同様に)。また、説明や 話し合いを繰り返し、卒業まで付き添いが引き延ばされた保護者がいることを踏まえれば、付き添いはなしが原則、行うにしても雇用契約を結ぶべきである。
早期に障害を発見し、子どもの力を伸ばし、交流を推進する特別支援教育の促進が共生社会に向かうという。しかし理解する機会など、子どもを分けなければわざわざ設ける必 要がないのだ。そもそも、子どもは力を伸ばさなくても今そこにいる、ありのままの姿を受け入れる力をもっている。でなければ、「自分は/誰々はどうして別の学級で学んでい るの?」という素朴な疑問は出てこないであろう。分けなくてよい仕組みのみが必要だ。
分けられた教育の中で、子どもは次第に学んでいく。どのような子どもが振り分けられ、何が評価され、社会に序列があることを。子ども同士の中で生じる差別やいじめと向き 合うには、まず私たち大人が、教育そのものが生み出している差別と向き合わねばならない。このことは障害者運動に携わってきた人たちや、調査に協力してくれた人たちから教 えられた。特別支援学校教員養成コースにいる矛盾と向き合いながら、しかしそこにとどまりながら、付き添いのような差別によって促される特別支援教育という存在の問題を考 え、訴え続ける。
他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。
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