障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2022年1月401号巻頭文

インクルーシブ教育実現のため文科省交渉を行います。コロナ禍により、ここ2年ほど文科省交渉を行えませんでした。全国連絡会が求める地域の学校を共に学ぶ 場にするためには、厚い壁が立ちはだかっています。インクルーシブ教育をインクルーシブ教育システムとし、内容を変えて多様な場に子どもたちを分ける特別支援教育を進める 文科省の姿勢を問うていきます。
 *要請書の案文についてご意見がある方はお寄せください。      (事務局)

文部科学大臣 末松信介様
 障害者権利条約が規定するインクルーシブ教育の実現を求める要請書

障害児を普通学校へ・全国連絡会  代表 長谷川 律子

この度は、障害者権利条約が規定するインクルーシブ教育の実現を求め、以下の要請についての話し合いをよろしくお願いします。

私たち障害児を普通学校へ・全国連絡会は、インクルーシブ教育の実現に向けて地域の普通学級で障害のある子も障害のない子も共に学ぶ教育を求めて、40年にわたり活動をし ています。貴省とも20数年にわたり話し合いを続けています。残念なことにコロナ禍の状況でここ2年ほど、話し合いを行えませんでしたが、今年は実りあるものにしていくため、 以下の要請をもとに話し合いを行いたいと思います。

日本政府は2014年1月に障害者権利条約を批准しました。そして、条約批准を受け、障害者基本法の改正や障害者差別解消法の制定など条約内容の実現が進められていす。
第24条 教育には「誰をも教育のあらゆる段階でクラスの一員として受け入れる教育を保障する」とあります。しかし、教育においてはインクルーシブ教育が実現されておらず、 障害のある子どもが普通学級で共に学ぶことが困難な状況にあります。

私たちの会には、本人・保護者の希望が認められず、特別支援教育を勧められたり、合理的配慮ができないから普通学級で受け入れられないという相談が多く寄せられていま す。最近は普通学級から特別支援学級への転籍や、特別支援学級から特別支援学校への転校を勧められる相談が後を絶ちません。こうした強制的と受け取れる指導により、特別支 援学級や通級指導教室、特別支援学校で学ぶ子どもの数は驚異的に増加しています。全体の児童生徒数が減少しているにもかかわらず、特別支援教育対象児が増えているのです。

共に学ぶ教育が進まない状況のなか、私たちは国連の障害者権利委員会にパラレル・レポートを提出しました。また国会に、「共に生きる社会をめざして障害者権利条約が規 定するインクルーシブ教育の実現を求める請願」を提出しました。貴省にもぜひ、障害者権利条約が規定するインクルーシブ教育を推進するように要請します。

1 就学予定者全員に地域の学校への就学通知を出すよう進めてください
就学時健診の通知と就学通知を同時に出している区市町村教育委員会があります。こうした事例を全国に広めてください。また、就学決定については、「学校教育法施行令の一 部改正について(通知)」に書かれてある、本人・保護者の希望が最大限尊重されることを周知徹底してください?。

2 就学相談の相談内容に普通学級に就学するための情報も提供してください
全国連では、これまでの貴省との話し合いのなかで、「教育長を通して保護者に適切な情報を提供するようお願いしている」との回答(2018年)を得ています。適切な情報の 中に普通学級で学ぶことも入れるとともに、昨年(2021年)施行された「医療的ケア児支援法」や「改正バリアフリー法」などの情報提供、合理的配慮についてもそのための 協議を求める権利があるという情報提供も具体的に入れてください。

3 障害を社会モデルとする認識にたって教育施策を進めてください
学校関係者や教育委員会関係者さらに教職を目指す学生に対して、障害者権利条約、障害者差別解消法の趣旨を周知徹底させてください。私たちのもとには、付き添いを強要されたり、教員の無理解な言動により親子が傷つけられたという相談が多く寄せられています。このため、障害児が普通学級から排除されることが増えています。 学校や教育関係者はインクルーシブ教育に対する認識が浅く、未だに「医学モデル」による指導が行われています。障害を社会モデルとする認識を周知徹底させてください。

4 乳幼児期の障害への支援はインクルーシブ教育につながるものにしてください
就学時の相談の内容と同じように、就学前の幼稚園・保育園においてもインクルーシブ教育についての情報を入れてください。病院や療育園の就園、就学相談で特別支援教育が勧 められています。乳幼児の頃から、分けられた場での生活情報しかありません。障害のある子も障害のない子も共に学び共に生活することから、インクルーシブな社会が作られて いきます。医療関係者、幼児教育関係者に対しても障害者権利条約、障害者差別解消法の趣旨を周知徹底させてください。

5 高校教育制度の原点を踏まえて、希望する子どもの全員を入学させるようにしてください
高校進学率が97%(特別支援学校高等部を除いて)となり、ほとんどの子どもが進学しているにもかかわらず、高校に入れない障害のある子どもたちが多くいます。受験時の配慮 が認められても不合格にされることもあります。知的な障害やコミュニケーションの困難で点数が取れないことや設備や人的な条件が整っていないことなどから不合格とされてい て、このことは障害による差別です。障害のあるなしにかかわらず、高校で学ぶことを希望する子ども、必要とする子どもを全員入学させるようにしてください。

6 「学校教育制度全体の根幹」とは何か、ご説明ください
文科省(当時、文部省)は、1981年8月の中央心身障害者対策協議会に「障害の重い子どもを小・中学校で教育することの問題点」(別紙参照)を提出しています。この内容 について、障害者権利条約を批准した現時点での見解をお聞かせください。また、④項の「学校教育制度全体の根幹」とは、具体的にどのようなことか、ご説明ください。

なお、インクルーシブ教育の現状を知るために以下の点について、2021年度の資料をご提示ください。回答をもとに話し合いを進めたいので、3月5日までにお願いい たします。
①全国の小・中学校・高校のエレベーターの設置率
*都道府県ごとの学校数(小・中・高校別)とエレベーター設置校の比率
②全国小・中学校の普通学級に在籍する医療的ケア児の人数
*都道府県ごとの普通学級(小・中・高校別)に在籍する医療ケアを必要
③全国の公立高校の定員内不合格者の調査
*都道府県ごとに定員に満たない学校数
*そのうち定員内不合格を出した学校数

以上

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

●巻頭 インクルーシブ教育実現のために、文部科学省との交渉・話し合いを求め、要請書を提出します/~国連の日本審査、今夏実施の予定です~コロナ禍により 〝日本のインクルーシブ教育〟は失敗だったことが顕在化した/文科省「障害のある子供の教育支援の手引」を改定/東京都の通級(特別支援教室)について/第5回 「やまゆり」からいのちを問い続ける横浜フォーラム報告/私たちは 誰に何を怒るべきか ―全国連が送った「声明」に、小山田事務所から返事が来ました/●「相談 から」コーナー 就学時健康診断で普通級入学を止められたのですが!/各地の集会・相談案内/事務局から/事務局カレンダー