障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2021年12月400号巻頭文

全国交流集会で話したこと
みんな普通に行って
こぞって学校教育制度(能力主義・分離教育)の根幹を揺るがそうではないか

東京都・世話人  北村小夜

障害児を普通学校へ・全国連絡会第20回全国交流集会?東京は、新型コロナとの闘いのさなか、規模を縮小して9月18日~19日に日本教育会館で行われました。1日目は全体会 で、我が国の共に学ぶ教育運動の原点ともいわれる映画「養護学校はあかんねん!」上映とパネルディスカッション、2日目は就学前・小中学校・高校・卒後・運動課題の分科会 でした。厳しい能力・分離教育状況にあるなか、新しい参加もあり時宜に応じた有意義な集会でした。

私は数少ない当初からのメンバーの一人だからでしょうがパネルディスカッションのパネラーの一人でした。会の歴史を語ることを求められていたようですが、もう齢は96歳、 多分最後の参加ですから遺言のつもりで当面の課題を話しました。その第一は ──

〝子どもを分けてはならない〟です。

子どもは分けたがっても分けられたがってもいません。どんな子も、現場に連れて行くなど判断材料を与えれば意思表示はします。大人はそれを読み取らなければなりません。 子どもは分けてはなりません。私は1965年、できない子にも教えられる上等な教師になろうとわざわざ特殊教育を学んで赴任した中学特殊学級で、地域の学校を排除されてき た子どもたちがその悲哀を教えてくれました。迎えてくれた子どもが同情を込めて「先生も普通学級落第してきたの?」と言ってくれました。私はその悲哀を引き受ける決心をし ました。考えてみれば ──

〝特別支援教育を選ぶことは普通を下りること〟です。

就学を前に普通か特別支援教育かどっちにしようかと並列にして考える向きがあるようですが、支援教育を選ぶことは普通を下りることです。支援教育は普通ではないのです。 小学校は普通教育の基礎的なものを施すところですが、特別支援教育は普通教育に準ずる教育と障害に応じた教育をするところです。(学校教育法72条)したがって将来にわた って普通に暮らすつもりなら特別支援教育を選んではなりません。そこで、気を付けなければならないのが ──

〝交流などで騙されるな〟です。

就学相談というのでうっかり相談のつもりで出かけて行ったら「特別支援学校」を勧められ戸惑っていると「普通学級との交流もありますよ」と言う声がかかってさらに戸惑 っていると「いきなり普通ではなく籍は支援に置いてしばらく交流をして様子を見てから普通に行ったらどうですか」などと言われ支援学校に入り、何年たっても普通学級に変わ れない人がいます。そもそも交流はお互いが違うから成り立つもので、障害児と健常児と違いを明らかにすることでもあります。統合へのステップにはなりません。

文部省が交流教育を勧めることになったのは全国連絡会が結成された1981年でした。1981年は国際障害者年でした。スローガンは「完全参加と平等」でした。その理念 は障害者を可能な限り社会の中に統合するものです。当然のこととして総理府に設けられた中央心身障害者対策協議会の教育・育成部会は障害児も普通学校に受け入れる統合教育 を模索しました。しかし、1979年に養護学校を義務化したばかりの文部省が、我が国の場合まだ充実すべき課題があるとして「統合教育の問題点」という4項目からなる文書 を提出しました。中央心身障害者対策協議会はこれを受けて統合教育には一切ふれない報告書を提出しました。文部省は全国の小中学校の中に「心身障害児理解推進校」を指定し 、これらの学校の子どもたちと特殊教育諸学校の子どもたちが、学校行事等で活動を共にする交流教育を勧めました。次々に「交流の実際」などという冊子を発行し、遠足や音楽 会、運動会などにおけるその効果を報じました。そこには双方の教師たちの配慮や子どもたちの声が美談風に描かれていますが、日教組の教研集会や私たちの自主的な集会の報告 では、当日になると熱が出たり、登校を拒否したりと障害を持つ子どもたちの側から交流を拒む姿が現れていました。なんといっても相手は理解推進校です。養護学校は理解され なければなりません。立場に堪えられない子がいても当然です。

「完全参加と平等」のスローガンを掲げながら統合を拒んだ文部省の文書は次の通りです。
障害の重い子どもを小・中学校で教育することの問題点
1981・8 中央心身障害者対策協議会
  ① 障害の重い子どもに対しては、小・中学校では適切な教育が出来ない。
A 一般の教育課程に適応することが困難。
B 障害に応じた特別指導(点字学習、口話法等の指導、機能訓練など)を受けられない。
② 一般の子どもたちの教育に支障が生ずる恐れがある。
A 40人学級では、担任教員が、障害児の世話に追われて、一般児童の教育に支障が生ずる。
B 教員および一般児童の負担が増える。(善意の手助けのみを当てにできない)
③ 多額の財政負担を強いられる。
A 学校施設の改善(スロープ、エレベーターなど)や、特別設備、スクールバスの整備が必要となる。
B 専門職員、介助職員が必要となる。
C 盲・聾・養護学校整備との関連で二重投資となる。
④ 現行の特殊教育制度、ひいては学校教育制度全体の根幹に触れる大きな問題となる。

障害児が普通学校に入ってきて統合教育になると現行の教育制度、すなわち能力主義が揺らぐと言うのです。願ってもないことではありませんか。現在学校で起こっている様々 な問題の多くがここに起因しています。こぞって普通学校に行き、能力主義・分離教育の根幹を揺るがそうではありませんか。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

●巻頭 全国交流集会で話したこと みんな普通に行ってこぞって学校教育制度(能力主義・分離教育)の根幹を揺るがそうではないか/今年の相談から 状況はますます悪 くなっているが、なんとか力を合わせて乗り越えよう/各地の就学相談会の報告 2021年 【北海道】私たちの就学相談会 【千葉】ゆっくり育つ子・社会的ハンディのある子の 就園と普通学級入学のための相談会【愛知】愛知の「就学相談」現状【大阪】東大阪市の「市政だより」/光菅和希くん控訴審 第5回期日報告/「文科省調査、発達障害児が6・ 5%いる」をあらためて批判する!/特別寄稿 「通級」は分離教育か/平本歩さんの小学校時代担任著作の追悼文集を推薦します/●「相談から」コーナー 運動会のダンスの練習が うまくできない!/40年分が1冊で読めます!「全国連40年の歩み」をお求めください!//事務局から/事務局カレンダー