障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2021年8月397号巻頭文

議員立法「医療的ケア児支援法」成立にかかわって

参議院議員 舩後靖彦

2021年6月11日、参議院本会議にて、全会一致で医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(以下、「医療的ケア児支援法」)が可決成立しました。 胃ろうや人工呼吸器利用などで医療的ケアを必要としている18歳未満の子ども(以下、「医療的ケア児」)の日常生活、社会生活を社会全体で支援し、健やかな成長を図る とともに、その家族が安心して子どもを産み、育てることができる社会の実現に寄与することを目的としています。そのために、医療的ケア児が医療的ケアの必要ない児童 等と共に学び育つための支援、医療的ケア児と保護者の意思を最大限に尊重した施策、居住地域にかかわらず等しく適切な支援を受けられる施策などを国、自治体に求めています。

私がこの法案に関わるきっかけは、川崎の就学裁判の原告・光菅和希さんとご両親が、昨年六月、永田町子ども未来会議(以下、「未来会議」)でオンライン発言すること を知り、参加したことでした。未来会議は、医療的ケア児の親である野田聖子議員(自民党)が、医療的ケア児をめぐる制度の谷間をなくすため、2015年に荒井聰議員 (民主党・当時)と超党派勉強会として発足させた会です。通常の議員連盟と違い、関係省庁の官僚や医療的ケア児を支援する療育・医療関係者、当事者・家族も参加され ています。

昨年の9月に未来会議で医療的ケア児支援法要綱案の検討がされることとなり、私は、秘書を通じて「バクバクの会~人工呼吸器とともに生きる」 (以下、「バクバクの会」)から医療的ケア児とご家族のご意見を伺いました。

バクバクの会からは、①「法の目的」は家族への支援より医療的ケア児本人の支援を第一にすべき。②「可能な限り」「できる限り」という文言があるが、断る理由にされ るため削除。③「学校等における医療的ケアの実施」で、介護福祉士等を「看護師等の負担を軽減するため」と位置づけているが、介護福祉士等は看護師の負担軽減のための 補助ではなく、医療的ケアを担う大切な人員であり、また看護師中心にすることで学校における医療的ケアにブレーキがかかりかねないので、この文言は削除。④「学校にお ける医療的ケアの実施」のところに「保護者の付き添いなく」を入れる、をご提案いただきました。②の「可能な限り」等の文言は私としても削除しかったのですが、立法技 術的に難しいため、より強い表現の「最大限」に差し替えを提案しました。

未来会議の議論で、①②④はそのまま受け入れられ、③に関しては、看護師団体の意向を勘案した結果の表現という説明でしたが、結果的に法案になる過程で削除され 、修正四点すべて法案に反映されました。私自身が人工呼吸器を利用する医療的ケア当事者ということもあり、「当事者目線の重要な指摘」と評価いただきました。バクバ クの会のご提案を形にすることができ、達成感がありました。

何回かの修正を経て法案が確定し、内閣・文科・厚労・財務の各大臣に法案成立への要請活動、法案の早期成立を望む当事者・家族の会による署名を衆参の厚労委員会 の委員長に提出など、法案成立への活発な根回し活動があり、私も参加いたしました。

6月に入って衆参の厚労委員会で法案質疑がありました。内閣提出法案(閣法)は、担当大臣か政府参考人(官僚)が議員の質問に答えますが、議員立法は提案者の議員 が回答します。そのため、提案議員が担当省庁や衆議院法制局と相談して事前に想定問答集を作成します。委員会での法案質疑の内容は、条文の解釈につながるため、想定問 題に対する回答案を議連内で検討する機会がありました。内部の話なので詳しくは書けませんが、私も何ヵ所か修正提案いたしました。その一つ、基本理念に関して「障害者 の権利に関する条約に基づくインクルーシブ教育システムの理念の実現に向け……」とありました。現状は多様な学びの場に分ける「インクルーシブ教育システム」だが、権 利条約に基づくのであれば「インクルーシブ教育の理念の実現」ではないか、と修正提案したのですが、文科省に受け入れていただけませんでした。就学先決定や保護者の付 き添いに関わる回答案への修正提案では、文章は変えられましたが修正主旨は受け入れていただいたのですが。文科省のこだわりが「インクルーシブ教育システム」という名 にあることには驚きました。

6月11日、法成立後、国会議事堂の正面で三人の医療的ケア児を含む未来会議関係者一同で記念撮影を致しました。僭越ながら、私は人工呼吸器・胃ろうなど、彼らと同じ 医療器具を自身の体に複数装着していることで、医療的ケア児の気持ちを、おおまかには感じ取れると思っています。それが私の強み、あるいは誇りとするものです。 これからも、医療的ケア児が不安や絶望感を感じなくてもよい社会、幸福や希望を感じ取れる社会にしていくことが、私の使命の一つと考えております。

今後、法に明記された理念が実現されているのかチェックするとともに、医療的ケア児を含め、あらゆる障害のある子どもの支援に取り組んで参ります。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

●巻頭 議員立法「医療的ケア児支援法」成立にかかわって/20回全国交流集会・分科会レポート【第1分科会 就学前】地元普通級で6年間揉まれて~座右の銘は 「人と比べるな」~【第2分科会 小・中学校】普通級を選択してよかった【第3分科会 高校】娘はキラキラJK【第4分科会 卒業後】息子3人の卒後【第5分科会  運動課題】阻まれているインクルーシブ教育を進めるには─ 高校三原則の現状から考える/2学期初日から星が丘小学校「普通学級」へ通えるよう佐野涼将君の特別支援学校 からの転籍を要請します/全国連結成40年を振り返る(2)/コロナ禍でも(その13)コロナ禍の学校●「相談から」コーナー特別支援学級での子どもの行動について/各地の集会 ・相談案内/事務局から事務局カレンダー