障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2021年1月391号巻頭文

「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議報告」を糾弾する

福岡県・世話人   堀正嗣

糾弾とは、抗議であるとともに差別をした人に差別の間違いをさとらせ、解放をめざす人間に変わっていくことを求める闘いだと言われています。「新しい時代の特別支援教 育の在り方に関する有識者会議報告」(以下、報告とします)を読んで、まさに糾弾が必要だと感じました。分けられ続けてきた障害児者の悲しみと怒り、「分けないで」と訴え 続けてきた当事者の声を一顧だにしない内容だからです。

そもそも「新しい時代」に「特別支援教育の在り方」を考えるという発想が時代錯誤です。特別支援教育は、「通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校と いった、連続性のある多様な学びの場の一層の充実・整備」を図ろうとするものであり、分離教育を推し進めるものだからです。特別支援教育は、問題は「特別ニーズ」をもつ子 どもの側にあるという医学モデルの障害観に基づいて、特別な教育を行なう体制を指すものです。そして医学モデルは差別の根拠となるイデオロギーとして障害当事者から糾弾さ れてきました。障害者運動は、問題は社会の側(教育に関する法律・制度・思想・方法・内容など)にあるという社会モデルへの転換を求めてきたのです。

その主張が国際標準となり障害者権利条約に結実しました。だから新しい時代に求められているのは、特別支援教育をやめて、社会モデルに立つインクルーシブ教育に転換する ことなのです。障害者権利条約24条は「(b)障害者が、他の者との平等を基礎として、自己の生活する地域社会において、障害者を包容し、質が高く、かつ、無償の初等教育を 享受することができること及び中等教育を享受することができること」を規定しています。また国連障害者権利委員会の「インクルーシブ教育を受ける権利に関する一般的意見4 号」は、通常学級から障害児が分離されることはインクルージョンに反することを明確にしています。加えてその70番目のコメントでは「委員会は締約国に対し、分離型の環境か らインクルーシブな環境へ、資源を移行することを強く求める」としています。特別支援学校・学級を減らして、予算や資源をインクルーシブな環境(通常学級)での共生教育の 支援に移すことを求めているのです。

にもかかわらず、報告は医学モデルに立つ分離教育制度の拡充という既定路線を権威づけるためだけのものであり、「新しい時代の」と書かれていても、真に「新しい」ものは 何ひとつありません。

就学の仕組みについても、障害者権利条約の批准のための国内法整備過程で2013年に改正されたものを追認しているにすぎません。これは従来の判別基準による機械的な分離 に代えて、「障害の状態、本人の教育的ニーズ、本人・保護者の意見、教育学、医学、心理学等専門的見地からの意見、学校や地域の状況等を踏まえた総合的な観点から就学先を 決定する仕組み」となったわけですが、判別基準が残されたばかりでなく、教育委員会による就学先決定権も残されました。踏まえるべき点として、冒頭に「障害の状態、本人の 教育的ニーズ」が置かれ、「教育学、医学、心理学等専門的見地からの意見」が列挙されている点で、能力主義と専門家主導の医学モデルが強化されたものであるといえます。

また、「全ての教師に求められる特別支援教育に関する専門性」も、医学モデルに依拠する「特別支援教育」の専門性を学ばせようとするもので、子どもと接するときの先入観と して働き、インクルーシブ教育を阻害することが懸念されます。

国連障害者権利委員会からインクルーシブ教育の実現を迫る強い勧告が出ることを期待しつつ、現場で闘っておられる子ども・保護者・教職員・支援者のみなさんと連帯して、 特別支援教育を糾弾する声を上げ続けていかなければならないとの決意を新たにしています。厳しい時代が続きますが、「私たちは打ち勝つ。なぜなら『偽り』が永遠に生き続け ることは無いから」というキング牧師の言葉を胸に刻みたいと思います。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

●巻頭 「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議報告」を糾弾する/素案と条約ーシリーズ・有識者会議を傍聴してー/高校を拓く 障害児の高校進学のこれ までと課題5/各地の就学相談のお知らせ(その2) 北海道 札幌市教委との交渉から~就学相談のこと/千葉 就学相談会の様子 /報告 子どもを分けてはならないー北村小夜さん、 多田謡子反権力人権賞受賞発/川崎就学訴訟の控訴審がはじまりました/ コロナ禍でも(その8)コロナ禍から「生還」して 新型コロナで引き裂かれるものは半端ではない/●相談から コーナー 支援級で交流したい/各地の集会・相談案内 /事務局から /事務局カレンダー