障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2020年11月389号巻頭文

今、子どもたちは
何を学び・どう生活したいのか
いっしょに学校を作る姿勢を求めている

子ども相談室「モモの部屋」 内田良子(東京都・会員)

新型コロナウイルスが世界的に流行し、日常生活が大巾に制限されるウィズコロナの生活を強いられて 9か月がたちました。寒さに向かい欧米では感染拡大の第2波が襲い、外出禁止令が出て終息の気配が見えません。 長期にわたって三密を避け、ソーシャルディスタンスを求められる学校生活に子どもたちにも疲労が色濃く出ています。

私は感染予防からオンラインによる講演会や相談会の企画が増えました。家にいながら全国各地に住む人々との交流が増え、 子どもの今を語り合い、情報を交換できるようになりました。しかしリアルな出会いがないと、話が深まらないのを感じます。

2月末、全国一斉休校が始まり、親たちも不要不急の外出を控えスティホーム・ひきこもり生活を強いられることになりました。 在宅ワークが求められ、狭い住居が仕事場になりました。子どもの声がうるさくて仕事に集中できないと父親が焦ら立ち、 仕事中は子どもを家から追い出す家庭が出ました。家庭の職場化で、子どもが家での居場所を失う事態になったのです。 非常事態とはいえ、いつも犠牲を強いられるのは立場の弱い子どもたちです。

母子家庭を対象にした調査では、母親の仕事が減って食費にもこと欠き、子どもたちは一日二食、母親は二日に一食しか食 べられず、八キロも痩せてしまったという報道がありました。子どもたちの貧困の背後にはそれに倍する親たちの貧困が横たわ っていることを、ウィズコロナの生活があぶり出しました。学校給食が子どもの栄養源だと言われるセイフティネットも休校に よって失われました。近代化された社会がいかに脆い生活基盤の上に乗っているかを思い知らされる日々が続いています。

私は「子ども相談」で相談交流会を長らく続けていますが、感染リスクの高い三密をさけるため、電話相談に切りかえました。 毎日のように電話がかかって来るのですが、コロナの流行以前から不登校やひきこもり生活をしていた子どもたちや当事者は、 自分たちの日常が世の中の日常となっただけなので、事態を冷静に受け止めていました。不登校をして家の外に出なかった小学 五年生は、昨日まで昼夜逆転の生活をして親に心配をかけていましたが、休校になった途端、登校時の朝七時半に起きてきて一 緒に食卓を囲み、親を驚かせました。同じクラスのゲーム友達がドヤドヤとゲームをかかえて遊びに来ました。お互いの家を行 ったり来たり実に楽しそうに遊び、不登校の壁が消えたら、わが子は普通に生活できる子どもだったとしみじみ実感し、自分は 何を悩んでいたんだろうと述懐していました。

しかしコロナの前に登校していた子どもたちは違っていました。一斉休校が夏休みのようなお休みではなく、課題も宿題も山 ほど出て、家庭が学校化する悪夢のような展開になったのです。在宅ワークで忙しい親が教師の役割をして、子どもたちに「こん なこともできないの」と叱咤し、険悪な空気が流れる家の中は居心地が悪く、現実逃避にゲームの世界が心の居場所になりまし た。

地域によってはオンラインによる授業が導入されました。不登校の子どもにはおおむね好評でした。特に不登校の子どもたち の中には、「透明人間になれたら学校に行ける」と言う子どもたちがいます。オンラインでの参加は自分の存在を透明人間のよう にして授業に参加できたので、心理的負担が少なかったのでしょう。しかし、学校が再開した後、オンライン授業を受けるための 手続きをするように学校から求められた子どもたちや親は、二の足を踏んでいます。登校を拒否してやっとの思いで学校との距離 を取ったのに、再び学校の鋳型をはめられることに抵抗を感じているようです。

今年の文科省発表の不登校児童生徒数は16万4528人で、統計を取り始めて以来最高の人数です。生徒総数は最少なのに、子ども の学校離れは増え続けています。近年特に小学生の不登校が目立っています。子どもたちの訴えは「学校を休みたい」から「学校 をやめたい」「退学する」と進化しています。

突然のコロナ休校と、学校再開後の学習指導要領に基づいた教科書の詰め込み授業と、ソーシャルディスタンスの指導や感染 予防を自己目的化した先生の指導に、子どもたちは疑問を抱いています。「学校は誰のためにあるの?何のために行くの?」 「学校に行く意味が分からない」「自分たちはロボットではない」と。

勉強が面白くて学校に行く子どもは少数派です。多くの子どもにとって学校は日々の生活の場であり、友だちと遊び群れる居 場所です。長びくウィイズコロナの学校生活を子どもたちに取り戻すために、子どもたちは今何を学びどう生活したいのかをよく 聞いて、いっしょに新たな学校の日常を作る姿勢が求められています。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

●巻頭 今、子どもたちは 何を学び・どう生活したいのか いっしょに学校を作る姿勢を求めている/ 高校を拓く 障害児の高校進学のこれまでと課題3/障害児の高校進学実現に向けて「高校問題の今」紙上交流(その5)大阪 大阪の状況報告~オンライン講演会の質問から/東京 定時制高校について/ コロナ禍でも(その6)自粛はつらいよ/コロナ禍で変更となった全国連の運動方針について/●相談からコーナー 「就学時健康診断 、就学相談は行かないことが一番」へのお便り、質問などから /特報 北村小夜さん 多田瑤子反権力人権賞受賞/ 各地の集会・相談案内 /事務局から /事務局カレンダー