障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2020年9月387号巻頭文

コロナ禍の障害者

「強制」と「自主」は、一八〇度ほどの違い「

ゆめ風基金代表理事 全国連大阪府・世話人  牧口一二

なんともお恥ずかしい。新型コロナウイルス騒動が起こるまで、ボクは、「ウイルス」の日本語訳が、「細菌」だと思い込んでいた。 満一才の頃にポリオウイルスによって障害者に仲間入りした身でありながら、カタカナ語に弱いゆえなり。ボクの文を読んだ友に 指摘されビックリあわててネットで調べてみると、ウイルス・細菌・真菌(カビ)と確かに区別されてて、大きさは人間の細胞が ほぼ1ミリの百分の一ぐらいで、真菌は千分の一ぐらい、細菌は千分の一~一万分の一間、ウイルスは一万分の一十万分の一の間と、 極々小さきものとのこと。1ミリの1万分の1と言われてもねぇ、マスクを難なく擦り抜けるので頷ける。そんな存在が地球全土に根をはり、 まもなく、80億人に届くという人類を震い上がらせるとは!ウイルスは自己複製できない(何かに寄生して増幅)ので「いきもの」では、 ない、とも言われて、またまたビックリ。

でも、いきもののごとく動き回るウイルスに対して、そこそこ大きな肉体とそこそこの脳をもつ人間は「たたかう」なんて言葉をよく使うけれど、 対等に立ち合えるのかな?学者や医師は「共生」というが、少しカッコ良すぎないか。人間を困らせる相手と、どのように付き合えばいいのだろう。 見えない相手では難しいよなぁ、原発の放射能しかり。

ボクは幼い頃から勝ち目のない相手に出会った時、その実力の違いを推し量るのがとても嫌で(これは障害を相棒に育った体験と関係ありそう) 、相撲の手によくある「いなす・かわす・うっちゃる」などで切り抜けてきたように思う。つまり、どんなものに対する時も相手の力を利用する方法だ。 新型コロナウイルスをもっと知らんとアカンなぁ。

ところで、災害時には隠されている課題があぶり出されるという。コロナ禍でもトリアージの危うさが浮き彫りに。大事故や大災害が起きると一度に 多くの人を助けなければならない。この行為は一見、正しそうだが治療順序を決める必要に迫られる。つまり「命の選別」ということ。命を選別する基準は何? 地域社会が大騒ぎになると、分りやすいのだろう年齢や障害はその度合いを秤にされてしまう。命の重さは比べられない。ば同じ齢の二人、一人は三人の子持ち、 もう一人は独身、サァ、どちらを先に治療する?……そんなことを考え始めたらキリがない。それぞれ他者には分らない事情を抱えて生きている。

コロナウイルス騒動が始まって間もなくの5月7日、NHK・ETV「バリバラ」はライブ番組を放映した。アメリカ、イギリス、イタリア、 インド、ベルギー、日本、加えて日系とユダヤ系アメリカ人の計8人の障害者によるリモート会議。障害者・高齢者と介護者は密接しないと仕事にならないという話題に始ま り、施設での障害者と職員の治療別扱い差別、トリアージを黙認する怖さなど、どれも命にかかわる重要なテーマが話し合われた。

それらで、気になったのはイギリスなどヨーロッパで、治療に時間がかかるウイルス感染者は治療を「遠慮」「辞退」してほしいと 国が公言している部分。これには日系アメリカ人の人工呼吸器を付けた若者が「こちらも同じ。感染して病院に駆け込むと、私の呼吸器を外して健常な患者に回しかねない怖さが ある」と語った。「遠慮」「辞退」と言葉は控えめだが、これは「強制」に等しい。自主と強制の間にはまったく逆と言っていいほどの違いがある。現在ボクは、そこそこの高齢で (84才)、1才から障害者をやってきた。なんとか独り暮らしが可能な障害程度。もし感染し、なんとか然るべき病院に辿り着いて、列に並んで、すぐ後ろに若い青年……ボクだって 「キミが先に治療を」と譲るかもしれないし、「順番はボクが先だ」と言い張るかもしれない。その時になってみないと判らない。

じつは福祉系の大臣とか著名な医師がランク付けを担当しているという話だ。社会的に責任ある立場から、「……すべき」と考えるクセが身についているせいだろう。 厄介なことだが、ただ救いは、こうした大臣や医師の姿勢に「それは間違っている」と声を上げる人も結構いること。ボクは素朴に思う。 そんな大臣や医師たちは余計なことを考えず、ただ一人でも多くの命を「順番に」救うことのみに専念してほしい。それだけである。


ゆめ風基金の紹介

1995年1月17日の阪神・淡路大震災に、地震など自然災害による被災障害者を支援することを目的に設立された基金団体。

いつどこで起こるかもしれない大災害の備えとして救援基金を設置し、災害時、障害者や高齢者、病弱な人など特別なニーズをもつ人が生命や人権を脅かされることのないよう、 適切な救援活動が行われるようサポートし、また、被害を受けた障害者の生きる場、働く場に救援金を届けることを目的としています。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

●巻頭  コロナ禍の障害者 「自立」と「共生」は、180度ほどの違い /川崎就学訴訟判決の最大の過ちについて(その4)/障害児の高校進学のこれまでと課題1/障害児の高校進 学実現に向けて「高校問題の今」紙上交流(その3)神奈川 神奈川における「インクルーシブ教育実践推進校」のまやかし/沖縄 沖縄からの報告/ コロナ禍でも(その4)差別を深めるコロナ禍/拾ってあげないのも優しさ?/●相談からコーナー  加配人員を確保した上での入学事例等、ありましたら教えてください /各地の集会・相談案内 /事務局から /事務局カレンダー