障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2015年9月号 338号巻頭文

「教育形態変更希望調査」!?

さいたま市・会員    関 啓子

6月にさいたま市のM小学校の保護者の方から「娘が学校からこんなものをもらってきたのだけれども」という相談があり「教育形態変更希望調査」が全児童対象に配布されたことがわかりました。

その名称からして、安保法案にある「○○事態」が連想され、言葉の意図的な言い換えを感じるものでした。埼玉県内の「共育共生」をめざして活動している4団体名で、質問・要望書を市に提出。さいたま市議で、自身が障害当事者であり地域の活動も担っているD市議の仲介で市教委と話し合いの場をもちました。

まず「教育形態変更希望調査」なるものは、市教委が市立小中学校長宛に出した文書で、要するに市の就学支援委員会の対象者をリストアップして報告せよというものです。直接保護者全員に希望をきくものではなかったのです。当該校長の判断で「教育形態変更は、保護者から意向をきいて判断するまでに時間がかかり、教育形態変更をする人だけだと目立つので全員に配布した」という回答でした。これに対し「申し出がないのに調査用紙を渡されるということは、特別支援学校や特別支援学級へかわることを促される。不安や迷いがある保護者の方にとっては呼び水になってしまう」「校長は市教委や県教委の意向をくんでやると思う。さいたま市は支援級を増やす方針。校長の意向はやっぱり支援級に移りたい子を出したいという意向があったのだと思う」等の意見がだされました。

また、「さいたま市では校内の指導の中で、保護者の自発的希望があった場合のみ指導。保護者との丁寧な話し合い・対応をする」と保護者からの希望を強調していました。保護者からの希望が就学支援委員会の対象の出発点というが、『希望』という形で出されるまでには、担任等からの『相談という名の指導』や、『付き添いのお願い』があって、結果的に承諾してというのが実態といえます。

通常の学級で一緒に学ぶために必要な支援をという要望にたいしては「個別支援計画の作成・個に応じた支援・どの子にも分かりやすい授業・ユニバーサルデザインの考え方で」という回答でした。個別や個に応じてだけではなく、障害をもった子を含めてどうしたらいいかという支援や教職員の協力体制作りに重点をおいてほしい、一緒に学べる工夫に力を入れてほしいものです。それにはまず、障害がある子が通常学級にいてもいい、いるのが当たり前という認識がないと具体化していきません。

さいたま市は2011年に「誰もが共に暮らすための『障害者の権利の擁護等に関する条例』」を制定。その中で「障害のある人が住んでいる地域で教育を受けられるようにするとともに、みんながともに学ぶことができるような教育を行うようにします」とある。

ところが、2013年に「特別な教育的支援を必要とする児童生徒」の調査をし、通常学級在籍の割合が全国平均を大きく上回り9・1%あり、その要因に特別支援学級の設置率の低さと保護者の意向を尊重した就学相談を挙げた。(新聞報道による)

そして2014年に『第2次さいたま市特別支援教育推進計画』で、「共生社会の形成を目指し、一人ひとりの教育的ニーズに応じた特別支援教育の推進」を基本方針とし、基本施策で「①多様な学びの場の充実」で真っ先に特別支援学級の整備(住み慣れた地域で学べるようにするために)をうちだした。通常学級や通級指導や特別支援学校の充実の文言も有るが。「②交流及び共同学習の発展③教職員の専門性の向上④相談支援体制の充実」とある。これらは、まさに文科省がいうインクルーシブ教育システムの構築そのものといえます。共生社会と謳いながら、個別の教育的ニーズに応じたそれぞれの支援教育、つまり分けることが前提の発想なのです。「学習の保障・どの場が一番のびるか・その子にあった教育・支援級との交流でノーマライゼーションは推進できる」等々の市教委の発言からは、権利条約にあるインクルーシブ教育を理解していないことは明らかだといえます。

一人ひとりの教育的ニーズにあった、お子さんにとって良いところが支援級・支援学校という考えが市教委や学校現場に浸透してしまっている。いや、今や保護者の中にもよりよい教育・教育サービスを受けられる〝ところ〟を望む声は大きい。支援級・支援学校や通級へのニーズがあるから作っていると市教委に言わしめてしまっている。

参加者からは、「一緒にいてこそ級友の一人として認められる。地域の学校に通うために地域の学校に支援級を作れば、本当に一緒に通えていると思うのか? 支援級のある学校の通常学級で学んでいた息子のことを、同じクラスの子が『支援級の子はバカだけど○○はバカみたい』と言っていた。ちょっと違うというのは子どもにも(13頁に続く)(2頁から続く)わかる。だけど違うところの子じゃないと。それは大事な教育では」「周りの子がありのままの姿を受け入れられる。座っていられない子を『自由人』だからと教えてくれた子。声をあげて走り回る子を『面白いやつなんだ』と言った子。教員生活での実体験です」との発言がありました。

いじめられたり勉強がわからなかったり、みんなと一緒にやっていくしんどさもあるでしょう。これは障害の有る無しにかかわらず誰でも同じこと。人として、いろんな子がいるというのを、本当に普通の生活の中で学んで行けることは幸せなこと。障害のある子と周りの子たちが一緒に成長して生き方を学んでいる。これこそが『学び』というものではないでしょうか。

最後にD市議から「インクルーシブ教育はどういうものなのか見直していくいい機会だと思う。多様な学びの場は聞こえはいいが、それによって異質な人がどんどん分けられていってしまうのはどうかと思う。こういう場をまたもちましょう」で終了しました。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

巻頭 「教育形態変更希望調査」!?/抑止力の強化で国民のいのちと安全はまもれない―成立した安保法を押し返すためにー/第17回全国交流集会・分科会発題要旨 第4分科会「地域で生きる」~お天道様の下で笑顔で作業を~ 「不当な差別的取扱いに当たらない具体例」って何だ? パブコメラッシュに目を光らせよう 差別に「正当な理由」なんてない/普通学校もあかんねん その11/●報告 第9回卒後を考える交流集会in高松/●相談からコーナー 就学相談で「これでは勉強についていけません」と言われましたが…/事務局から/事務局カレンダー/2015年 第2回 全国一斉障害児の普通学級就学相談 ホットライン実施のお知らせ