障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2014年1月 321号巻頭文

障害者権利条約を批准へ
     ─今後の課題「制度改革第2ラウンド」―

DPI日本会議事務局  崔 栄繁

はじめに

2006年12月13日に国連総会で採択されてから7年、2013年12月4日の参議院本会議で障害者権利条約(以下、権利条約)の締結が承認された。天皇の認証を経て、批准書を国連に寄託し批准が正式に決まる。正式な批准日は2014年2月の初旬くらいになるのではないか。個人的にも2002年から2006年までの特別委員会参加、2009年の批准阻止から制度改革、そして批准ということで様々な想いが押し寄せてくる。

批准が決まれば、日本国には権利条約の内容を遵守する国際法上の義務が生じる。日本では条約は国会で定められる法律より上位にあり、日本国憲法に次ぐ法規範となる。これは今後さらに権利条約に則した制度改革を促進する力となり、障害者問題に触れてこなかった一般の市民にも障害者問題への認識を広げる大きなチャンスともなる。

権利条約は、障害者を慈恵や保護の客体から権利の主体へとパラダイム転換する条約とされる。ドン・マッケイ第2代特別委員会議長において80%がNGOの意見を取り入れたものと言わしめたほど、障害NGOの大規模かつ実質的な参画によって策定されたものである。しかし、使いこなさなければただの紙切れである。全国連の機関誌ということだが、本稿では教育問題に特化せずに条約一般から私たちの今後の課題を考えてみたい。

権利条約の主な内容

権利条約は前文、総則にあたる一般規定(1~9条)、個別規定(10~30条)、実施規定(31~ 40条)、最終規定(41~ 50条)の全50条、5つのパートからなる。特に重要なのが一般規定である。一般規定は具体的な個別権利を定める個別規定の解釈の際の指針となり、木に例えるなら根や幹にあたるものだ。機能や能力障害を持つ人の社会参加の不利の原因を機能障害と社会の環境の作用のためとし、社会の障壁の除去に焦点を当てる「障害の社会モデル」を取り入れた第1条の目的規定。異別扱いや不利益扱い、合理的配慮を行わない「障害に基づく差別」や「コミュニケーション」、「合理的配慮」などの定義規定を行っている第2条。尊厳や機会の平等、完全かつ効果的な参加とインクルージョンなど条約に魂を吹き込む条項と言われる一般原則を定める第3条。締約国の義務を規定する第4条。差別禁止や機会均等を徹底するための第5条等々である。

個別規定では、すべての障害者の法の前の平等を定め法的能力の行使や自己決定支援を定めた第12条。地域での自立生活条項として特定の生活様式を義務付けられずに、どこで誰と住むかを選択できる権利規定を行った第19条。これは脱施設条項とも言われ、パラダイム転換のための権利条約の基礎となる条項とされる。生まれた地域での質の高いインクルーシブ教育を原則とし、すべての障害のある子どもに必要な合理的配慮の提供を義務付け、個別化教育もフルインクルージョンを目的とすべきと規定した第24条。インクルーシブでアクセシブルな環境での労働の権利を定めた27条等々である。さて、これらをどう使いこなすかが大きな課題となる。

今後の課題

日本は2009年の権利条約批准阻止以来、障害者基本法の改正、障害者総合支援法の制定、障害者差別解消法の策定、障害者雇用促進法の改正等、不充分ではあるが批准のための制度改革を一定行ってきた。そして2013年再度の政権交代が起きて制度改革は終了、と思われている方もいるかもしれないが大きな間違いである。法的には権利条約遵守の法的義務はこれから生じるのである。批准までの条件整備を第1ラウンドとすると、これから第2ラウンド開始である。

まず、参考までに2013年12月3日の第158回参議院外交防衛委員会の質疑をみるといいだろう。障害の定義や監視体制、インクルーシブ教育等々、様々な質疑がされており、今後の運動の様々なヒントがあるように思う。教育に関しては民主党の福山議員や神本議員が大臣等から良い答弁を引き出している。例えば、「インクルーシブ教育(政府訳では「包容教育」)とは可能な限り障害のある子どもと無い子どもを一緒に勉強させることで、可能な限りとは障害のある子どもが望む場合である」という大臣答弁等である。国会の質疑は条約の解釈にとって非常に重要である。

次に、批准後二年後に政府はスイスのジュネーブにある国連障害者権利委員会(以下、権利委員会)に条約の実施状況についての第1回目の国家報告書(ナショナルレポート)を提出する義務を負う。第2回目からは4年ごとだ。権利委員会の審査を受ける。その審査に合わせてNGOはパラレルレポート(NGOレポート)を出すことができ、権利委員会の審査や日本政府への見解や勧告に影響を与えることができる。私たちNGOとしてはこのパラレルレポートづくりにおける他の障害者団体、市民団体と協力体制づくり、ジュネーブでのロビー活動の体制づくりが課題となるだろう。

障害者基本計画の実施と監視、障害者差別解消法のガイドラインづくりや障害者虐待防止法の改正など、課題は山ほどある。全国連には改正学校教育法施行令の実施状況の分析等も期待したい。これらすべてに条約の魂をどう吹きこむか。条約に沿って制度や現場をどう変えるのか。それは条約をどう使いこなすのか。すべて私たちの活動にかかっている。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2014年1月321号目次
・巻頭 障害者権利条約を批准へ —今後の課題「制度改革第2ラウンド」—
・シリーズ憲法改悪7 日常生活のなかの憲法改悪の動き
・第16回全国交流集会・分科会報告
・「奨励」なんてしてないですから!
・11・24『養護学校はあかんねん!』世田谷上映会報告
・12/1「0点でも高校」をめざして25年~109人合格記念集会~お礼とご報告
・「一緒に学ぶ」を「理想」にしないで! ~全道教研(室蘭)参加記
・東大病院医療と教育を考える会」閉会のお知らせ
・全国連・初の連載小説! 第15回『ただやみくもな、わけではない』
・中川明著『寛容と人権』を再読しながら思ったこと、考えたこと
・●相談からコーナー 支援学級の担任が話にならないのですが
・気になる新聞記事
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