障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2013年12月 320号巻頭文

福島を忘れてはならない

東京都・世話人  山田 真

福島へほぼ一ヶ月に一回のペースで出かけるようになって二年半がすぎました。大半は「子どもたちのための健康相談会」に出席するためですが、それ以外に放射線関係の会議や福島県に対する交渉などにも参加してきました。そしてこのところは福島へ向かう、足も心も重く、東京へ帰る新幹線の中ではもっと気分がおちこみます。福島の人たちからいろいろなことを訴えられながらそれに一つもこたえられない、国や福島県に対してなに一つ〝実りある〟対策をとらせることができないという無力さにさいなまれるからです。

ただ福島での健康相談には娘の涼も毎回参加して手伝ってくれ、彼女の明るさが健康相談会を企画しているメンバーに元気を与えていると言われています。(涼は今、四十歳。身体障害、知的障害がありますが、東京都立の普通高校全日制に挑戦、三年の浪人後合格。留年をくり返し六年かかって卒業しました。二十年近く昔の話です。)福島では二〇一一年三月以来、何が行われてきたのしょうか。端的に言えば〝原発の稼働を続けるために「放射能安全神話」を作り上げること〟と、〝賠償を減らすために放射能による健康被害はないことにしてしまうこと〟の二本柱を国、福島県、東京電力が一体となって推し進めてきました。そしてこの二本柱は連動しており、その策動は成功して今、福島をはじめとする東日本各地で「放射能についてはもう心配することはない」という安全ムードが支配的になっています。しかし原発に反対して運動してきた人たちを始め、ホットスポットと呼ばれる地域に住み続けている人たちの間では不安は持続していて、わたしも地震を感じるとすぐにテレビをつけて震源地を確かめる習慣が続いています。福島の原発がもう一度地震でこわれたら日本全体が壊滅的な状況になると思うから、震源地が福島の浜通り近くでないかどうか確かめずにはいられないのです。全国の原発がすべて廃炉にならない限りわたしが安心できる日は来ません。

国や福島県が流してきた放射能安全神話とはどのようなものかふり返ってみましょう。

実はこの放射能安全神話は一九四〇年代以来、核を保有する国々や原子力産業を推進しようとする勢力が一貫して広めてきたものです。それが福島原発事故によって「原発安全神話」が崩れたために、より強力に流布されるようになったということです。

「放射能安全神話」の中心は「低線量被曝は健康に対して大した影響を与えない」というものです。その理由は「チェルノブイリの原発事故は甲状腺ガン以外、一切、放射能による健康被害が起こらなかった」からだと言います。しかしそれは大うそでチェルノブイリの周辺地域ではあらゆる種類のガンが発生した他、身体の各部にさまざまな病気が起こり、寿命が短くなったり免疫力が落ちたりしているのです。

そうした事実をICRP(国際放射線防護委員会)などが隠蔽し「甲状腺ガン以外の症状、病気はすべて心因性のもの。放射能を異常にこわがる放射能恐怖心によるものだ」としてしまったのです。「一〇〇ミリシーベルト以下の線量ではガンは発生しない」「年間二〇ミリシーベルトの被曝では健康への影響はない」など、科学的根拠のない言説がふりまかれました。しかしICRPは一般人の年間許容被曝線量を外部被曝、内部被曝を合わせて一ミリシーベルト以下と定めているのです。二〇ミリシーベルトというのは放射線災害が発生した直後など緊急時、非常時の許容量であってこの量の被曝が安全ということでは決してないのです。

そして今、福島では「甲状腺ガン以外の健康障害は今後も起こらないのだから検査は甲状腺のエコーだけでよい」と断定され、それ以外の検査はされていません。更に甲状腺ガンが発見されてもそれは放射能によって生じたものではないと断定されているのです。

福島へ行ってみますと、ホットスポットと言うべき線量の高い地域がまだ沢山残っています。福島市内でも東京の何十倍もの空間線量を示す場所が点在し、とても子どもたちが安心して暮らせる状態とは思えませんが、子どもも大人もなんの援助も受けることなく日々の生活を強いられています。これほど援助のない状態におかれれば「福島は安全と思おう」という意識が地元の人たちの間にうまれてくるのは当然かもしれません。

茨城や千葉などに住む人の中には放射能について心配している人が少なくないのにくらべて福島で心配している人が少ないようにぼくには思われます。それだけ絶望が深いのだと推察しています。健康相談で出会う子どもたちの印象だけから言えばまだはっきりした健康障害は出ていないように思われますが、なにしろきちんとした健康調査・健康診断が行われていないのですから実態はわかりません。

これまでの広島、長崎やチェルノブイリの経験から考えれば、白血病の発生を警戒して血液の検査だけでも早い時期から行われるべきですがそういうことは全く行われません。

日本に在住するフランス人文学者ミカエル・フェリエさんは「三年を経ずして『フクシマ』はすでに忘れられた、というのが現在の僕の印象です」とはっきり書いています。

忘れてはいけません、フクシマを。そして世界中の原発が一日でも早くなくなるためにぼくたちは力を尽くさねばならぬと思います。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2013年12月320号目次
・巻頭 福島を忘れてはならない
・「丁寧に」分離していく体制整備が進んでいる  ホットライン、あれ! やっぱり!
・就学時健康診断(就健)」相談コーナーに寄せて
・第16回全国交流集会・分科会報告
・神奈川県教育委員会に問う! その後
・シリーズ憲法改悪6 憲法を私たち自身のものに
・10/ 19東京「障害」児教育研究集会報告 石毛鍈子さんの講演を聞いて
・全国連・初の連載小説! 第14回『ただやみくもな、わけではない』
・特別支援教育就学奨励費について
・内木さんからの質問とご意見について
・事務局から
・事務局カレンダー 11月・12月