障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2013年8月 317号巻頭文

共生を求めて

被災地障がい者センターみやぎ 及川智

 これまで多くのご支援を賜っておりますこと、感謝いたします。

 東日本大震災における、障がい者の死亡率が約2倍(地域によってだいぶ差があるのだが)であったことが大々的に報じられた。この事実が我々につきつけるものは何か?「生きる」ということへの厳然たる差別である、と私は思う。

 2011年3月11日14時46分。その時を私は代表を務めていた、宮城県仙台市の自立生活センター「CILたすけっと」の事務所でメンバーと共に迎えた。

 ごくごく身近な安否確認のあと、それぞれ指定避難所である小学校へと向かった。私は電動車いすユーザーである。避難所である体育館は次第に避難者が増え、自然に隅へ移動せざるを得ない。ほどなくして、トイレへ移動するための通路の確保も、車いすから降りるスペースの確保もままならなくなった。こうした状況を踏まえ、共に避難したメンバーと相談した結果が「たすけっと事務所」での避難だった。避難所へ身を寄せたのは6時間だった。避難所に避難できなかった。

 大きな物理的被害もなく、水道が止まらなかった事務所に戻り、十数名で夜を明かした。いつも共にいる仲間との避難は恐怖の中でも心強くもあった。反射式ストーブで暖を取りながら聞いていたラジオから流れてきたのが「仙台市沿岸部で300名の遺体発見」の報だった。「なぜ?」というのが最初に思ったことだった。明くる日の新聞とテレビ報道で津波の大きさを知ったのである。

 避難所に避難できなかったこと、全国の方々、特に多くの障がい者団体の支援をいただけたことが、たすけっとが中心となって救援活動を展開する原動力となった。

 2011年には、東日本大震災障害者救援本部をはじめ多くの皆様のバックアップを得て「被災地障がい者センターみやぎ」を立ち上げ、物資提供、拠点整備、人的支援などを行ってきた。その過程で再認識したのが、障がい者が支援を求めにくい現状だった。「障がい者だから人の迷惑にならないように」という意識が強く、できる限り他者の手を借りずに暮らしている傾向がある。ひいてはいざ支援を受けたいときにも得にくい状況に陥る。もちろんそれだけではないが、震災当初、自宅で何とか暮らしていた方々の様子を見聞きするにつけ、障がい者支援の乏しさや避難所で避難できない状況が浮き彫りになる。そうしたことの背景に先述の意識があるのではないかと思う。

 2012年のセンターみやぎの活動の柱に「共に生きる石巻を作り出す連続公開講座」があった。これは、震災で障がい者がより多くの割合で亡くなったことを踏まえ、「犠牲にならないまち」を作っていくきっかけとするための講座である。センターみやぎの副代表石川雅之氏が全国連のメンバーなので、長年にわたって、「共に学び共に育つ」ことを各地域で実践されてきた方を講師にお招きできた。

 障害の有無にかかわらず一緒に学び育つことでお互いを理解し、支えあうこと。そして、地域社会とつながりながら暮らすことで緊急時にもお互いに助け合える関係性を築いていける。その一歩が共に学ぶことである。幼いころから関わりを持つことで、障がい者に対する偏見がなくなっていき、ごくごく自然に接するようになっていく。障がいを持つ人も関わりの中で、同様にかかわり方などを学んでいく。そういったことを通して地域の同年代の人、親同士が地域的なかかわりを持っていく。こうした関わりが災害時にも大きな力を発揮する。

 講座には毎回平均30人程度の方に参加いただいた。その中に、Fさんがいた。Fさんは、支援学級に通うお子さんのお母様だった。ご存じのとおり講座の参加をきっかけとして、今春からお子さんは地域校の普通学級に通われている。講座を実施した大きな成果といえる。

 2013年は、震災と震災支援を経験したものとして、提言活動と
映画の上映会を実施している。提言は仙台市に対するものだが、その中心となるものは、災害時に避難所となる学校のバリアフリー化に関するものと、要支援者名簿に関するものである。

 学校のバリアフリー化は、「避難所に行けない、過ごせない」という根本的な課題に対しての提言であると同時に、インクルーシブ教育を実践していくうえで不可欠な整備と言える。現在、障がい担当部署だけでなく、教育担当部署との協議も見据え、協議をしようとしている。正直なところ、協議はうまくいっているとは言えないが、粘り強く続けていきたい。

 私たちが目指すべき復興は、障がいの有無によらず、共に暮らせるまちにすることである。「必要な支援が受けられてはいなかった」と同様に被災障がい者支援にかかわった方が言った。ここでいう支援とは公的な福祉サービスのことだけではない。友人・知人・町内会からの支援も含む。そうしたものが極端に得にくかったというのが今回の痛恨なる反省であり、教訓であろう。私自身も含めて。

 そうしたことを一つひとつ訴えること、表に出すことは決してわがままなことではないのだということを地道に多くの人々と共有していきたいと思っている。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2013年8月317号目次
・巻頭 
  共生を求めて
・「私たちの考える合理的配慮とは」緊急変更!
 「文科省の『インクルーシブ教育システム』に対抗するために」 6・30学習会報告
・第16回全国交流集会・分科会発題要旨
・分科会当日レポートの書き方と名刺広告のお願い
・シリーズ憲法改悪3 衆議院憲法審査会 報告
・地域通信 「就学氷河期」の広島から
・DPI日本会議全国集会in神戸
・来春こそ、高校生になります!
・全国連初の連載小説第11回 ただやみくもな、わけではない
・石巻訪問など
・第7回 障害のある人たちの「卒後を考える交流集会in岐阜」報告
・就学ホットラインの報告 ──ネットワークは拡がる
・事務局から
・事務局カレンダー 8月・9月