障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2013年5月 314号巻頭文

障害者差別解消推進法案の意義と限界

東京都・世話人  大谷恭子

 障害者差別禁止法の制定は、2009年に始まった障害者制度改革の仕上げの法案だった。これは、2006年国連で採択された障害者権利条約の国内法整備の仕上げであったと言ってもいい。そして障がい者制度改革推進会議は差別禁止部会を設け、政策委員会に引き継がれた後、2012年9月には部会意見を取りまとめ、政策委員会に提出していたのである。これは2010年、障害者制度改革の第1次意見において、2012年度、即ち2013年3月末までにその制定を目指すことが閣議決定されていたのだが、政権交代によって、この工程は実現不可能になったかと思われた。しかし、自公政権下にあっても何とか差別禁止法制定を実現しようと、当事者団体を含めた関係者らの努力によって、2013年4月26日、障害者差別解消推進法案という形で閣議決定され、現在国会に上程されている。この経緯からも、この法案は決して当初期待した、障害者に対する差別を明確にしたうえでこれを禁止し、差別から速やかに救済することを法定するというものではない。その内容は決して十分に満足しうるものではないのである。

 先ずその問題点は、第1に、差別の定義があいまいであることである。差別を禁止するということは多くの人に何が差別かを明らかにするものでなければならない。にもかかわらず、不当な差別を禁止する」として何が不当かの例示すらないのである。権利条約は差別の例示として「区別、排除、制限その他の不利益な取り扱い」と明記している。わが国においてはとりわけ分けることは差別であるとの認識が少ない。とするならここはぜひとも区別、少なくとも排除は差別であるということを明示するべきである。第2に、合理的配慮が事業者については努力義務となっていることである。国及び行政については義務とされたが民間にいきなり義務付けることは難しいとされた。この2点は今後の運用いかんによっては致命的な限界となりうるくらい大きなものである。

 にもかかわらず、私が、それでもこの法の早期の制定を求めるのは、以下の点に意義を見出すからである。

 まず第1に、法の目的に、「尊厳にふさわしい生活を保障される権利」として、地域生活につながる尊厳ある生活に権利性を認め、さらに、「障害の有無によって分け隔てられることなく」と明記したことである。差別の例示としては区別や排除という文言は入れられなかったが、法の目的に、分け隔てなく、と明記されたのである。法の目的とは、法の立法趣旨を明らかにし、各条項の解釈の指針となるものである。よって、ここから差別の定義を導き出すことは可能となった。この法によって、権利は分け隔てなく認められなければならず、決して分けられたところで保障されればいいということではないのであるということの有力な根拠となるものである。しかもこの法の立法理由にも、分け隔てなく権利は保障されなければならないとされ、この法の性格・方向性を明らかにしている。

 第2に、合理的配慮の義務付けの対象として、独立行政法人等、と規定され、その等の内容が「特別法によって設立行為をもって設立された法人、特別法により設立されかつその設立に行政庁の認可を要する法人のうち政令で定めるもの」と定義され、これは学校教育法の学校法人及び保育園などを意識したものであり、これによって学校そのものに合理的配慮が義務付けられたのである。公立学校の場合は教育委員会が行政機関として合理的配慮を義務付けられるが、それとは別に、学校が義務付けられるかについてもこの条項で義務付けられる余地が出てきたのである。ただし、どの範囲の学校かは最終的には政令で定めることとされ、これからの課題であるが、義務教育段階の私立学校については排除される理由はないと思われる。

 第3に、各省庁のガイドライン策定にあたって政府の基本方針を定めなければならず、これに障害当事者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、障害者政策委員会の意見を聞かなければならないとした。障害者政策委員会も障害当事者を構成員とすることが定められているのであり、この点からも基本方針策定に対して当事者の意見を反映させることが期待できる。

 第4に、救済機関については既存のものを使うとされ新たな機関を設けないとされてきたが、最終局面において、国及び地方公共団体に障害者差別解消支援地域協議会を設けることができるとし、ここの運用の仕方によっては、障害者から直接の相談を受け、問題解決に実働できる機関としうる余地を残したことである。当初この機関は、障害者の生活全般で問題になる差別に対し、庁内を横串にする関係協議機関のイメージであったが、各自治体において千葉型のワンストップ型相談機関とすることも想定されるようになり、大きく前進したところである。

 以上のように、差別解消推進法は差別をなくすその方向性を示したということにとどまる面もあるが、運用いかんによっては十二分に期待できる内容となってきたのである。この法案を成立させ、各自治体において大きく育てることも可能である。また法そのものが3年後の見直しを設けていることから、まずは成立させ、ステップアップさせることも可能である。

私は今後の期待も込めて、この法案を今国会で成立させ、それぞれの現場で生かしていきたいと思っている。( 2013年5月6日)

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2013年5月314号目次
・巻頭 障害者差別解消推進法案の意義と限界
・「障害児」の高校入試の状況(2013年春)
・事務局カレンダー 5月・6月
・県立内海高校に入学しました
・笑顔で春を迎えました
・共に生き共に学ぶ学校こそ宝 娘の高校進学・卒業とインクルージョン
●全国連・初の連載小説 第9回—ただやみくもな、わけではない
●相談からコーナー 担任や保護者の皆さんに何かを伝えるとき
・事務局から
・第7回 障害のある人たちの卒後を考える交流集会IN岐阜
・障害児を普通学校へ・全国連絡会 学習会『私たちの考える「合理的配慮」とは…!?』
・「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」報告