障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2013年4月 313号巻頭文

結成32年後の「障害児を普通学校へ・全国連絡会」の運動は

障害児を普通学校へ・全国連絡会 事務局長  佐野公保

 3月10日に総会が終わりました。事務局長をすることになりました。それ以前に自分ではわかっていたのですが、どうやっていくのか、その手だてが、気持ちの持ち方が、なかなか見えてきていません。総会の折りにも、とにかくやっていきますとしか言えなかったように思います。その後何日もたってもまだまだ少し先も見えてない気がしています。

 3月21日の朝日新聞の1面トップは、「学校6日制 8割賛成」「公立小中の親 教育格差6割容認」が見出しの全国調査の結果でした。それは2面に「平等への期待細る」「格差容認、各層で増加」「私立の満足度90%越す」と続いていました。分析に関わった耳塚寛明お茶の水女子大副学長(教育社会学)の一声は「驚いた」でしたが、この一つの調査結果を全国連の皆さんはどう受け止めるでしょうか。

 この調査の通りなら、そういう学校の中では「障害」を持った子どもたちへの排除の方向性がますます強くなるのではないかと容易に思わせられます。耳塚氏は障害児に言及しているわけではありません。しかし、「広がる格差社会、学歴神話の崩壊」を見出しに、戦後の日本社会は生まれの不平等にかかわらず、「平等社会」を目指してきたのに、今や「日本社会は平等の理念を捨て去る方向にかじを切った可能性がある」と言っています。「格差を当たり前と考える社会では」として言っていることを「障害児」に置き換えて考えてみると、ますます何とか分離別学にしよう、必要な支援や合理的配慮なんてそんなにできっこない、差別禁止法っていうけど区別はいいんだなんて、そんな雰囲気ということなのかと思わされます。選別が前提の私立の満足度90%は何をか言わんやと思ってしまいます。私たちの求めるインクルーシブ教育の根底に「平等」があります。障害を理由として差別し分離別学を強要することに私たちが抗い原則統合を求めるのも、平等を求めているということでもあります。その「平等」自体が危うくなり、「格差」が容認されているっていうのは、「差別」が容認されるということですから、私たちの求めるインクルーシブ教育はその根拠を根底から崩されかねないことになってしまいます。

 でも、そうだとしても私たちの運動は徹底的に「平等」にこだわっていくしかありません。全国連の運動は言わば二つの方向から行われてきたと思います。一つはどのような「障害」があっても、様々な分離の圧力を突破して地域の普通学校、普通学級に入っていくこと、そして具体的な共生共学のあり方を求め、実践し、「平等」な生き方を作り出していくことにつなげる活動の展開であったと思います。もう一つは、原則統合のみちすじをつくっていくための取り組みであったと思います。ここ数年の間は制度改革の動きに応じて、推進会議や中教審特特委また文科省等への働きかけ、具体的に障害者基本法の改正や学校教育法施行令の改正に向けた取り組みも行ってきました。この二つは、会の内部でも議論が行われてきましたが、別々にあったということではないと思います。それぞれがあることでそれぞれの方向性の運動を支え合ってきたのだと思います。それは全国集会といった場でも常に議論されてきたのです。

 そういう中で全国連は一昨年結成30年を迎えました。会報紙上でその総括をしながら、運動の次を考えようとの企画を実施しました。30年の経過の再確認は一定できたでしょうか。しかし、そこからどう運動を展開していったら次に進んでいけるのかはまだ定かになっているとは言えません。

 先日の総会、その前日の世話人会は、そういう中での運動のあり方についていくつもの重要な議論がありました。現状をどうとらえるのか、そこで就学運動や制度改革の運動に対して原理原則をはっきりさせて取り組んでいくことの必要性が語られました。そして自民党憲法改正草案のまやかしに惑わされることなく、障害者にとって差別的な憲法改悪に反対していかなければならないことの指摘もありました。そしてそうしたことも踏まえながらも、厳しい状況で孤立しがちでどうにかしてつながりを求めている親たちの相談に最大限応えていくことに全国連の役割があることも話されました。

 そこで前述のことを考えると、どうやら結成32年後の全国連絡会の運動は、活動方針でも述べられていることに加えて、よって立つ「平等」ですらが、憲法が改悪されずとも既に危ないのではないかという現状であるようです。これは、しばしば今言われている「普通」にではなく、「特別」を求めるというありようの現実として踏まえなければならないということかと思いました。そこのところから私たちは、どういう原理原則で、どういう具体的な相談、支援といった運動を展開していけるのかが問われているのではないかと思いました。加えて今年からの連絡会組織は事務局専従がいなくなりました。事務所は当番によって日常体制をとります。いくらか会員数も減少がとまり好転してきていますが財政も課題です。運動の課題とこうした組織運営的な課題に合わせて取り組んでいかなければならないのだと思っています。

 前述の耳塚氏は、こういう社会を「やむを得ない」と思う人の6割に対して、それでも4割は「問題だ」と思っているとし、これを「問題だ」と思っている人は「まだ4割もいる」ととらえ、その人たちの支持を背景にして政策をすすめるべきだとしています。これに倣えば、格差、差別を問題と考える人たちの射程の中には「障害」が必ずしも入っているとは言えませんが、「平等」を求め、「共生共学」を求め、地域で共に生きることを求める人たちは絶対にまだまだたくさんいるはずだと思います。どうしたらそうした人たちを掘り起こしつながりあっていけるようにできるかということだと思います。これは誰も一人ではできません。代表を先頭に役員みん
なで考えてすべての会員の皆さんに提起して行くことができたらと思っています。私もすでにそこそこの高齢、また遠路からの事務局長で十分なことができないと思いますが、可能な限りの力で頑張ります。そして会員の皆さんからたくさんの声を寄せていただき、32年目の連絡会の運動を共につくって行きましょう。それではよろしくお願いします。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2013年4月313号目次
巻頭
・結成32年後の「障害児を

・普通学校へ・全国連絡会」の運動は

・2013年度 総会報告

・2013年度 世話人会報告

・2012年度収支決算

・2013年度予算

・ぜひ10月には福岡へおいでください。
 全国交流集会プレイベント報告

・新型出生前検査が始まったけれど
 障害者と子どもをもつ人、両方の人権を高めたい

●全国連・初の連載小説 第8回
ただやみくもな、わけではない

・精神科に入院して

●相談からコーナー
今年度の相談から

・13年度文科省「インクルーシブ教育システム」構築事業の概要

・事務局カレンダー 4月・5月

・「障害」児を普通学級へ・全道のつどい&就学のための相談会

・事務局から