障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2013年1・2月 311号巻頭文

2013年度活動方針(案)

障害児を普通学校へ・全国連絡会 運営委員会

1.2012年度活動報告

 2012年度の総会は、その一年前の東日本大震災で亡くなられた方々と2月9日に亡くなられた元事務局長の熊谷直幸さんへの哀悼を込めて黙禱から始まりました。
 被災された会員から、「医療的ケアを要する子どもが、通学していた地域の小学校に避難したが、いろいろな人と知り合っていたので気持ちを楽に過ごせた。震災という辛いことを通して、共に生きることの大切さを改めて感じた」という報告がありました。大震災が地域で共に育ち学ぶことの大切さを改めて浮き彫りにしてくれました。

 当たり前のこととして地域で共に学び育つためには、亡くなられた熊谷さんが提起された原則統合の法改正が必要です。一昨年、8月に施行された改正「障害者基本法」の内容が現場でどう具体化されていくかは、学校教育法施行令の改正にかかっています。私たちの望む「分けない教育」実現のための法改正を求めて運動を展開していった一年でした。

1.制度改革へ向けた動き

 中教審に設置された特別支援教育の在り方に関する特別委員会(特特委)は6月8日にその最終報告を議長一任という形にして会を閉じました。最終報告をもとに文部科学省が、就学先の仕組みに関する学校教育法施行令の「改正」の作業を急ピッチで進めているという情報があり、6月に大きな集会を3回連続で行いました。

 6月14日「民主党インクルーシブ教育を推進する議員連盟」(以下、議連)の主催で開催された第5回「インクルーシブ教育の実現に向けて法改正を求める連続院内集会」には、急な呼びかけにも関わらず、全国から180人もの方々が参加されました。集会では、5月31日に平野文科大臣に提出した就学に関する議連案が紹介されました。全国連としては、議連案全体については、賛成できない点もありましたが、施行令第5条を改正して、まず、どの子にも就学通知を先に出すという点では一致することができました。

 6月27日には、全国連独自で文科省との交渉を行いました。全国から60人の方が集まり、事前に提出した要請書にそって、「総合的な判断では今までと変わらない」という点を追及しました。障害児の問題は学校教育全体に関わることなので、特別支援教育課以外からの担当者の参加を要望し、教育課程課からの参加もありましたが、文科省からは具体的な回答を得ることはできず、私たちの側の交渉の進め方にも課題が残りました。

 6月30日には、2つの会を経ての学習会を開き、あくまでも原則分離の形を残そうとし、それをインクルーシブ教育と言い換えている文科省に対する、私達の今後の運動の進め方を確認しました。このままでは、何も変わらない、何としても5条の改正を実現したいということで、議連の学習会への参加やロビー活動・地元議員への要請を呼びかけていきました。

 秋には、「障害者差別禁止法」制定に向けてのパブリックコメントがありました。それに対しては、学校現場における具体的な差別事例を提示して、差別禁止法の制定を求めていきました。
 夏には改正案が出されるのではないかと言われていましたが、文科省は、政局がらみで、時間稼ぎをし、結局、12月16日の選挙を迎えました。自民党政権に戻り、特特委報告にそった改正案が出されてくることが予想されます。(1月20日現在)

2.相談・支援

 昨年度から実施した「全国一斉就学ホットライン」を今年は、就学相談が始まる6月と就学時健康診断が始まる10月の2回実施しました。6月は16都府県で対応しました。相談件数は37件でした。秋にはさらに新たな県でも実施しましたが、相談件数は17件でした。件数は少なくても、全国一斉に取り組むことの意味は大きく、運営委員会では、今後も工夫しながら広めていくことが確認されました。

 今年も電話やメール等で多くの相談が寄せられてきました。HPを見て電話やメールをしてきた方もありました。内容は、いじめや親の付き添い強制への対処、特別支援学校や学級への転校・転籍の勧め、あるいは、普通学級への転籍希望がなかなか実施されないなど様々です。

 運営委員会では毎回、最初にどのような相談があったのか報告を受け、必要に応じて全国連としての働きかけを検討してきました。世話人や運営委員が学校や教育委員会に話しに行くことで事態が良い方向へ進んだ事例もありましたが、十分な支援ができないケースもありました。

3.会報・広報

 発送作業を運営委員会のある日の午前中から行い、10回の会報を発行することができました。運営委員と近くの会員の方々での発送作業体制ができあがってきました。

 内容については、地域の取り組みを紹介するコーナーを設けて原稿を書いていただいたり、全国連に送られてくる地域の会報の中から頑張っている取り組みや元気の出るような記事を転載させていただきました。

 HPに関しては、予算化をしてメンテナンスを専門家にお願いし、最新情報を発信できるようになりました。しかし、最終的なリニューアルや地域のグループとの連携などの作業がまだ完全ではありません。HPから会の存在を知り、問い合わせをしてきて、その後、会員になったケースもありました。月1回発送の会報では、緊急の取り組みや、各地の集会のお知らせなどをタイムリーに発信できることが難しく、HPの充実、活用への取り組みが急務です。

4.第10回『障害』児の高校進学を実現する全国交流集会

 10月6、7日、埼玉で行われた第10回『障害』児の高校進学を実現する全国交流集会は、現地実行委員会の皆さんのおかげで、全国から244名が集まり、成功裡に終わりました。まだまだ壁の厚い高校ですが、多くの方が参加し、交流することで、その課題を共有し今後の運動への力となっていきました。

5.組織・財政問題

 新会員が43人あり、退会者数を上回りました。また、多くの方からカンパも頂きましたが、会の財政は逼迫した状態が続きました。事務局の専従費を削減せざるを得ない状況になり、12月いっぱいで、長年、会の運動を事務局員として支えてきてくださった伊地智恵子さんに会の専従をお辞めいただくことになりました。これまで会の様々な仕事を一手に伊地智さんにお願いしていたため、戸惑いも多くありますが、運営委員だけでなく会員の皆さんにボランティアを呼びかけ、対応していくことになりました。
 事務処理をスムーズに進めるための、会員名簿のPC化作業も進めてきました。

2.2013年度活動方針案

1.最近の情勢から

(1)制度改革に関する状況

「原発ゼロ」の見直しに象徴されるように、安倍政権は、民主党政権が進めてきたことを覆す方向で進んでいます。そのことは教育政策についても同様です。3月の総会時には、就学先の仕組みに関する学校教育法施行令の「改正」されたものが出されています。特特委の出した、「障害のある子の就学先は、本人、保護者の意見を最大限尊重し、合意形成を行うことを原則とするが、総合的な観点から、最終的には教育委員会が決定する」という提言通りの内容だと予想されます。

 全国連31年の歴史は、全国各地で、個人が各学校と、地域のグループが教育委員会と交渉をしてきた積み重ねです。「総合的な観点…」では、実質的に今と変わりません。むしろ、最終的には保護者の希望を通していた地域でも、希望に反し新たな「総合的な判断」が強要される可能性もあります。

 場合によっては以前よりも厳しい状況が予想されます。これまでの取り組みを通して得たものは何かを整理し、新たな力に変えていかなくてはなりません。蓄積が試される時です。

(2)さらなる分離が進む中にあって…

 2007年度に始まった特別支援教育は、6年目を終えようとしています。障害のある子どもの教育は分離・別学が一層進行しています。障害の早期発見が早期分離へとつながり、障害の軽重にかかわらず普通学級を希望することが減ってきています。特別な支援を求めて普通学級から特別支援学級を希望する子が増えたため、これまでの特別支援学級に在籍していた子が特別支援学校へ行かざるを得ない状況もあります。

「いじめ」が大きく問題化されましたが、なぜそのような状況になってしまうのかという根本的な問題は問われないまま、加害者の厳罰化と被害者の保護対策ばかりが論じられています。

 新学習指導要領の完全実施にともない、学校の多忙化、能力主義による競争に拍車がかかっています。特別な支援というプラスイメージで語られるサービスの陰で、能率や効率を優先した学力至上主義の普通学級では、教員の余裕の無さが、子どもに対する許容範囲の無さにつながり、障害のある子はますます居辛い状況になっています。

 このような状況の中だからこそ、共生共育(インクルージョン)は、障害のある子に限らず、どの子にとっても必要なことです。地域で共に生きていくためには、小さい頃から共に学び育つことが大切であることは、大きな犠牲を出した東日本大震災の教訓でもあります。全国連の目指してきたことに自信と確信をもって運動を進めていきましょう。

(3)活動の活性化への課題

 会の活動の基本は、全国の「地域の学校で共に学び共に育つ」ことを求めている子どもや保護者を支え励まし、つながっていくことです。そのことを通して、多くの若い会員を増やしていくことが会の活性化につながります。そのためにはこれまで以上に、全国の世話人、会員の皆さんに協力を頂かなくてはなりません。これまでの実績をもとに新たな体制づくりが求められています。

2.今年度の活動方針

(1)共に学び共に育つ教育を実現するための活動を進めていきます。

(2) 10月12日13日に福岡で開催される「第16回全国交流集会」開催の成功に向けて、現地実行委員会とともに取り組みます。

(3)全国連の運動に当初から関わってきた会員はそれぞれの地域で「生きる場、働く場」をつくって活動しています。普通学校でやってきたことが卒業後の生活にどうつながり、どのような展望があるのかを明らかにする活動に参加していきます。

(4)会報の年10回発行をめざします。全国各地の情報や地域の活動も紹介していきます。ブックレットの作成、ホームページの更新に努め、活用します。

(5)全国の会員、地域の団体と連絡を取り合い、相談・支援活動を行います。

(6)事務局の専従体制がなくなったことにも対応しながら、運営委員会を中心とし、さらに多くの会員、世話人が参加しやすい運動のあり方を考えていきます。

(7)以上を通じて、会員の拡大と財政の確立をめざしていきます。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2013年1・2月311号目次
巻頭 2013年度活動方針(案)
1.2012年度活動報告
2.2013年度活動方針案
第1回DPI障害者製作討論集会に参加して
第2回「共に生きる石巻を作り出す連続公開講座」報告
各地では 横浜市の就学について学習会をしました
さくらさん、よかったね!
全国連・初の連載小説 第6回 ただやみくもな、わけではない
相談からコーナー
先生の指示に従わないと担任から言われたが
事務局から
事務局カレンダー 2月
全国交流プレイベント