障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2012年12月 310号巻頭文

「分けない覚悟」

新潟県・会員  栗川 治

 初めて政府の会議に参加した。これまで傍聴や交渉の経験はあるが、自らが委員として発言する機会を持つとは思いもよらなかった。改正障害者基本法に基づいて内閣府に障害者政策委員会が設置され、その最初の仕事が次の障害者基本計画の審議。六つのテーマに分けて小委員会で議論することになり、私は教育に関わる第一小委員会の専門委員を委嘱された。おそらく障碍のある教職員の立場からの意見が求められたのだろう。もちろん、政権交代によって始まった当事者主体の障がい者制度改革の動きがあったればこそである。

 第一小委員会は9月から10月にかけて3回開催された。論点は、初等中等教育におけるインクルーシブ教育システムの構築、就学先決定、合理的配慮等であった。就学先決定を「原則統合」へと転換させることができるか、学校現場での合理的配慮を権利として保障させ具体化できるか。文部科学省が激しく抵抗しているテーマだけに、政府の施策に対して監視・勧告する法的権限のある政策委員会が、どのような意見を取りまとめるかは、きわめて重要である。

 文科省の課長が、「インクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」という中教審特特委(中央教育審議会特別支援教育に関する特別委員会)の報告を説明し、その特特委の委員長であった大学教授が、この小委員会の専門委員に加わり、その内容を補強する。改正障害者基本法で「障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会」が目標とされているだけに、文科省としても「同じ場で共に学ぶことを追求する」、「障害のある子どもは特別支援学校に原則就学するという従来の就学先決定の仕組みを改め」るとは言う(この公式見解は過小評価すべきではなく、各地で大いに活用できるはずだ)。しかし一方で、「教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる、多様で柔軟な仕組み」、「通常の学級、通級よる指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある「多様な学びの場」を用意しておくことが必要である」とし、「総合的な観点から就学先を…最終的には市町村教育委員会が決定する」としている。これでは実際には従来と変わらない結果になりかねない。

 これに対し、私も含め多くの委員が「共に学ぶ」「本人・保護者の意に反した決定はしない」ことを主張した。小委員会の座長も「学校教育においては障害の有無によって分け隔てられることなく,共に教育を受けることができるようにすべきである」、「就学先の決定にあたり、障害者・保護者の意向に沿うことを基本とすべきであるという意見が大勢であった」と集約している。この座長報告に文科省課長は「小委員会の議論を取りまとめたかのような記載がなされていますが…座長と副座長の責任において…整理されたものであって、小委員会として結論を出されたものではない」と苦しい反論を試みる。

 私は「分けない覚悟」を強調した。「学校現場はこれがうちの学校の生徒だと、覚悟を決めるといいますか、排除しないのだと思ったときには、教職員あるいは同級生は一緒にやっていくのです。ところが、どこかにこの子は別のところに行ったほうがいいのではないかという出口が想定されていると、排除の方向へ行きかねない。…今、私自身も障碍を持って普通高校で働いていますけれども、やはり途中で見えなくなったときには、あなたは目が見えないのだから盲学校へ行って働いたほうがいいですよということは言われるわけです。障碍のある人は特別なところへ行って、そこなら安心して生きられるでしょう、普通のところは大変でしょうということになってしまう。…合理的配慮にもつながると思うのですが、障碍があってこういうことに困っているのですと言うと、だったらここでなくて別の場所ねと言われてしまう。…いろんな個別のニーズがあるのだということを言っても追い出されないシステム、そこの部分を大前提で確定していかないと、特別支援教育がエクスクルーシブな教育になってしまう」と。
 また、障碍のある教職員への合理的配慮の実現のために、まずは現状のデータを出すように求めたところ、文科省は実態把握すらしておらず、厚労省の雇用率の数値しか出せなかった。特殊教育→特別支援教育の枠内に障碍児教育・障碍者問題を閉じ込めてきて、一般教育システムに障碍のある人の存在すら想定してこなかった、これまでの無策の弊害が至る所で露呈してきている。「国連の障害者権利条約への批准を、オリンピックへの出場に例えるならば、インクルーシブな教育システムの構築が、国際標準記録であり、エクスクルーシブな要素を持ってきた特殊・特別支援教育のホップ、ステップに捕らわれて、ここで大きなジャンプに躊躇してしまうと、この国際標準は超えられません」とも私は意見書で訴えた。

 政権が変質し、さらにはこの年末の総選挙結果によっては旧来の分離教育推進勢力が政権に復帰するかもしれない。それでも私たちは前に進むことができる。たとえ道が険しく茨に覆われていようとも。権利条約で示された人類普遍の価値は、天空の星のように輝き続けているのだから。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2012年11月309号目次
巻頭 分けない覚悟」
全国一斉就学ホットライン報告 ひとりの人のためにでもつづけたい
医療的ケア学習会報告 「医療的ケア」もみんな一緒!
各地では 八戸で取り組んでいる課題
第10回「障害児」の高校進学を実現する
 全国交流集会In SAITAMA 分科会報告
全国連・初の連載小説 第5回 ただやみくもな、わけではない
熊谷直幸さんを偲ぶ会を行いました
前例がなければ前例を作ればいい
緊急要請! 2つの署名をお願いします
 洋介さんとみんなの会「ニュースNo1」
 庄司勇さんと夕香さんとさくらさんの経過と説明
相談からコーナー
 ひとりの子が学級を乱して困ります。何か方法はあるでしょうか。
事務局から