障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2012年7月 306号巻頭文

国は約束を破った

障害者自立支援法訴訟の基本合意の完全実現をめざす会 事務局長 太田修平

怒り、怒り、怒り

 6月20日(水)午後、参議院に集まった約300名の仲間は、憤り、あきれ、絶望の淵へと落とされた。
 障害者総合支援法案は、この日の参議院本会議で、ボタン一つの投票で、あっけなく賛成多数(共産、みんな、社民、反対)可決成立した。  
 この法案は、全国14地裁に提起された障害者自立支援法違憲訴訟を受け、3年前の政権交代によって、当時の長妻厚労大臣が「障害者の尊厳を深く傷つけたことを深く反省し」とし、「平成25年8月までに、障害者自立支援法を廃止し、新たな福祉法制を実現する」という基本合意を原告たちと結び、訴訟の和解に至ったことの、まさに到達点となるべきものであった。ところがそうではなかった。障害者自立支援法のほんの一部だけを改正した「名ばかり新法」となってしまった。

サービス抑制の構造改革

 小泉政権時代、構造改革路線が提起され、社会福祉分野でも基礎構造改革が進められていった。象徴的なものとして、介護保険制度の導入があげられる。障害分野では、「措置から契約へ」というスローガンが掲げられ、支援費制度が導入され、2005年に「天下の悪法」といわれる障害者自立支援法がスタートした。この自立支援法の最大の問題点としてあげられるのは、1割の応益負担の導入であった。この負担については、経過措置が何度かなされ、介護サービスについては、多くの世帯(低所得)は無料となったものの、世帯単位で負担額が決められてしまい、さらに法律上は、応益負担の考え方が残されたままで、厚労省の考え方ひとつで、いつ1割に戻されてしまうかわからない危険をはらんだままとなっている。

もうひとつの問題は、障害程度区分の導入である。介護保険のようにその人の障害状況をコンピューターで判定するというシステムが導入された。24時間介護が必要な人については、市町村の判断で認めてもよい、としたものの、国庫負担基準が定められ、超過を認めた場合は、市町村の財源でそれを賄いなさい、というものであった。これによって、長時間の介護サービスがなかなか受けにくくなってしまい、保障されない時間帯については、ボランティアをお願いするか、介助者なしで我慢するか、を強いられることとなった。

 和歌山市では、自治体が認めた介護時間では到底地域生活が難しい、という理由から、裁判所に、ALSで障害の重い人が提訴し、裁判所は、1日21時間以上の介護サービスを提供する義務が市にあることを認めた、という事例もある。

 障害者権利条約では、障害のあるなしに関係なく、平等に地域社会で生きる権利がうたわれ、インクルーシブ社会の実現が求められている。教育も同じ考えが求められているが、生活の場についても、インクルーシブの考え方がとられている。国庫負担基準を超えたサービスを市町村が出来にくい状況では、結局、障害の重い人たちは、施設か親元で暮らさざるを得なくなってしまう。他にも色々と問題はあるが、自立支援法は、サービスの伸びを抑制し、効率化をはかるようにする、というのが、基本にある。厚労省はここ数年、障害者施策にかかる予算は伸びている、としているが、私たちの運動があればこその話であり、社会福祉を抑制するための制度としての位置づけにはなんら変わりはない。

基本合意と骨格提言

 障害が重ければ重いほど負担が大きくなる、というのは憲法の法の下の平等などに反するとして、障害者自立支援法違憲訴訟は、起こされていった。

 基本合意が結ばれ、制度改革推進会議の総合福祉部会で障害当事者団体の代表者によって1年半にわたって、新法のあり方について議論がされた。そして昨年8月「骨格提言」が出され、例えば障害程度区分を廃止し、障害当事者と市町村が必要なニーズについて話し合いサービスを提供するなど、地域社会で生活していけるような新しい提言がいくつもだされた。その中には、地域社会で暮らしていけるための体制整備を段階的に行っていきましょうとか、当事者を中心とする相談体制を充実させましょうとか、そういうものも盛り込まれていたのである。しかし、今回の総合支援法ではそれらはほとんど反映されず、検討課題とされてしまった。それでは新法という意味が全くないに等しい。自立支援法廃止条項ももちろんない。

 障害者団体は、日本障害者協議会(JD)、全日本ろうあ連盟、障害者の地域生活確立の実現を求める全国大行動、の3団体を中心に自立支援法廃止の運動を展開し、昨年10月には、骨格提言の実現を求めた、全国大フォーラムを日本障害フォーラム主催で1万人が参加し行った。

 総合支援法、確かに進んでいる側面も少しはあるが、権利条約の批准を目標に置くならば、程遠いと言わざるを得ない。

 3年をかけての見直し規定がある。それに向けた粘り強い運動と、懸案事項である差別禁止法の制定に向けて、連帯のうねりを大きくしていかなければならない。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2012年7月306号目次
就学先決定の仕組みを改正し、共生共育へ!6月連続行動報告 1
6.14 院内集会に180人参加、5条改正を強く訴える
6.27 文科省交渉(話し合い)に教育課程課が出席!本人・保護者の権利の尊重を迫る
保護者の付き添いなしで行けた涼華さんの修学旅行
普通学級の中へ、そしてこれから 娘と共に
第10回「障害児」の高校進学を実現する全国交流集会分科会レポート
    第2分科会
    第4分科会
第6回卒後を考える交流集会 in えひめの報告
   障がいのある人たちが自分らしく自分で決めて暮らすために
事務局から