障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2012年4月 303号巻頭文

共生共育をベースとしたインクルーシブ教育の実現を

障害児を普通学校へ・全国連絡会代表  徳田茂

 昨年の三月に東北地方を襲った大地震と大津波からちょうど一年となる、三月十一日に開かれた全国連の総会は、大震災の犠牲になられた多くの方々と、二月九日に五九歳の若さで亡くなられた元事務局長・熊谷直幸さんのご冥福をお祈りする黙祷から始まりました。

 三月に入り毎日のように一年前の震災の映像が流されていて、それを見るたびに遠くに住む私でさえあの日のことがまざまざと蘇り、胸が苦しくなりました。現地のみなさんの胸中には私などの想像をはるかに超えた心の痛みが残っていることでしょう。東北の人たちとつながって生きていきたい。改めてそう思いました。

 人は他者とつながってこそ、自分らしく生きていけます。この世に生まれて他者の存在を必要としない人はいないはずです。私たちにとって、亡くなった人もまた大切な他者です。

 生きている他者以上に大切な亡くなった他者が存在することがあります。私にもそういう人がいて、時折その人と対話しながら自分の立ち位置を確かめたりします。二月に亡くなった熊谷さんも、私には大切な他者です。こうして鉛筆を走らせていると自ずと熊谷さんのあの穏やかな表情と、「そいでさあー」という語りが浮かんできます。

 近年全国連では「原則統合」「共生共育をベースとしたインクルーシブ教育」制度の実現を目指して取り組んでいますが、全国連の中で「原則統合」について論議するようになったのは一五年ほど前、熊谷さんが事務局長の時でした。その後さまざまな曲折を経て、全国連の運動の一つの柱として「原則統合」「共生共育をベースとしたインクルーシブ教育」制度の実現に向けた活動が展開されるようになりました。

 百パーセント満足できる制度が実現することはないでしょうし、下手に制度化することによって首を絞められる恐れも大いにあるわけですが、そのことも覚悟のうえで私は、よりましな制度を実現させる運動が必要であると考えていました。そんな私にとって、熊谷さんの提起は納得できるものでした。

 制度改革を求める取り組みも含め、全国連の今年度の活動方針案は前号に掲載されていますが、総会ではそれをもとに活発な論議が行われ、そのうえで提案された案は採択されました。

 以下のスペースをいただいて、日頃私の思っていることを少し述べさせてもらいます。

 昨年の八月、新しい障害者基本法が施行されました。〝障害の有無によって分け隔てられることのない共生社会の実現〟が目的として掲げられ、教育においても少し前進した内容となりました。

 ただ、文科省は相変わらず特別支援教育を充実させることで日本型インクルーシブ教育として定着させようと考えているようです。

 それぞれの国の文化や人口規模などの違いにより、各国の教育制度やその中身が異なるのは当然です。インクルーシブ教育についてもいろいろ違いが出てくることは大いにあり得ます。その時問われるのは、当然のことながらその中身です。

 文科省は「個別の教育的ニーズ」に焦点を当て、それに応える教育としての特別支援教育の充実を図ろうとしていますが、私は自分自身の経験や全国各地の実践から学んできたことを踏まえて、「生き合い、学び合い、育ち合いの共生教育」こそがインクルーシブ教育の理念を具現化するものであると考えています。

 わが国では、極めて制約の多い中で、全国各地で医療的ケアを必要とする子や、重度重複障害といわれる子などを含めて、さまざまな障害のある子を普通学級で受け止めての「生き合い、学び合い、育ち合い」の教育実践が積み重ねられてきました。原則分離の制度のもとで、共生教育の実践には多くの困難が伴いました。それはみなさんもよくご存知の通りです。差別的な言動に胸を痛めることもあれば、具体的な取り組みの中で先生も子どもも親も悩み迷うということも、多々ありました。さまざまな困難にぶつかりながらも、私たちは、共生教育のもたらす実りのゆたかさを実感してきました。それらの一部はあちこちで実践記録として蓄えられてきています。

 世界の中でわりと熱心にインクルーシブ教育に取り組んでいるといわれている国々でも、障害の重い子も含めた教育実践はそう多くはないようです。そんな中で、共生教育の理念と実践はとても貴重なものです。

 前述したように、人は自分らしく育つために他者を必要としています。人は人の中でこそ、自分を育てていけます。その意味でどの子も普通学級の中に位置づけられ、共に学び合い育ち合える共生教育は、人間としての育ちにとって意味深い教育です。

 もちろん課題は山積しています。制度改正によって改善が期待される部分もあれば、実践的に練り上げられていくべき課題もたくさんあります。何より、学校教育における競争主義的な風潮が大きな障壁となっています。

 それらの課題としっかり向き合い、今の子どもたちのために、そしてこれから生まれてくる子どもたちのために、「生き合い、学び合い、育ち合いの共生教育」をベースとしたインクルーシブ教育制度を、ぜひとも私たちの国に定着させたい。ますますそんな思いを強くしています。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2012年4月303号目次
2012年度 総会報告
2012年度 世話人会報告
日教組第61次教育研究全国集会に参加して
全国連発足30周年企画リレートーク No.9「私の全国連」
追悼:熊谷さん 未だに信じられません―【クマさん、助けてよ!お願いだから】
戦いは誰のために その11- 公立学校、普通学級に通う
普通学級の中へ・そしてこれから-  僕は宣言した「共に生きる心」
校長先生ありがとう
京ちゃん、普通学級就学決定! 喜びと感謝の記者会見
相談コーナー
 「普通学級に入るなら勉強できるようになってもらわなくてならない」と
事務局から