障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2012年2・3月合併 302号巻頭文

2012年度活動方針(案)

障害児を普通学校へ・全国連絡会事務局長  名谷和子

Ⅰ 2011年度活動報告

 3・11東日本大震災のため、翌日から大阪で予定されていた世話人会・総会は5月に延期になりました。震災、そして原発事故とそれによる放射能汚染。日本社会が大きく揺れ動くなかでの、全国連30年目の年でした。

1.制度改革へ向けた動き

 大震災により、「障害者基本法」の国会審議が滞った中でも、文科省は着々と「中教審・特別支援教育の在り方に関する特別委員会」(以下「特特委」)を開催し、特別支援教育=インクルーシブ教育だという、すり替えの論理を主張していました。このままではいけないという危機感をもって、7月9日に、全国連として文科省交渉を行いました。当日は80名ほどの参加がありました。原則分離の現行法体制により行われている学校での様々な差別の現状を訴えることはできましたが、一歩進んだ回答はひきだせませんでした。今後、話し合いを継続していくことは確認しましたが、年度内には実現できませんでした。

 「障害者基本法」は7月29日改正、8月3日公布されました。その内容は、「可能な限り」「配慮しつつ」という文言が入り、一昨年12月に障がい者制度改革推進会議がまとめた第二次意見とは乖離がありますが、日本の法律に初めて「分け隔てられることなく」「共生社会の実現」「共に教育を受ける」ということが規定されました。障害者基本法の改正についての評価は、内部でも論議がありましたが、これを足がかりにして、運動を進めていこうと、障害者権利条約批准・インクルーシブ教育推進ネットワークと協同でパンフレットを作り、広めていきました。

 11月9日には、インクルネットの呼びかけで、インクルーシブ教育推進に向けて、法改正を 求める連続院内集会の4回目が開催され、全国連としても、学校教育法の改正の必要性をロビー活動で訴えました。文科省は、インクルーシブ教育をインクルーシブ教育システムという言葉で表現するなど巧妙になってきていますが、その本質は30年前と変わらず、原則分離のままです。特特委の中に「合理的配慮に関するワーキンググループ」を立ち上げ、学校における合理的配慮についての報告も出しましたが、これまでの特別支援教育の中で行われている配慮や支援が「合理的配慮」として位置づけられて、障害者権利条約や障害者基本法でいわれている社会的障壁の解消としての「合理的配慮」という視点で検討されていないことが問題です。共に学ぶための合理的配慮を実現させていかなくてはなりません。

2.相談・支援

 今年度も電話やメール等で多くの相談が寄せられてきました。内容は、いじめや親の付き添い強制への対処、保育園からの排除、特別支援学校や学級への転校・転籍の勧めなど様々です。日常的な学校生活の中でも、プールに入れてもらえない、どんなに暑い日でも、自分で水を飲むことが出来ない子に、学校職員が水を与えようとしないなどの訴えもありました。

 会報に「相談からコーナー」を設け、相談内容とその回答や、全国連としての取り組みを会員に知らせ、問題を共有できるようにしてきました。

 メールでの相談も、担当者を決め、対応をしてきました。電話での相談では、内容によっては地域の世話人や会員を紹介していきました。運営委員会では毎回、最初にどのような相談があったのか報告を受け、必要に応じて全国連としての働きかけを検討してきました。特別支援学級から普通学級へ移ることが可能になった事例も報告され「元気をもらえた」「対応が改善された」という返事が返ってくることもありましたが、十分な支援ができないケースもありました。

 初めての取り組みとして、9月に全国一斉ホットラインを実施しました。準備不足の点も指摘されましたが、今後も継続していくことでネットワークを広げていきます。

3.会報・広報

 9回の会報を、その月内に発行することができました。
 結成30年目として、リレートークも連載しました。結成当時の様子や裁判闘争など、これまでの運動の積み重ねの重さを知ることができました。
 制度改革に関する記事が多く、もっと地域での取り組みの様子が知りたい、頑張っている姿ばかりではなく、ほっとするような記事もほしいという声も届いています。投稿をお願いしても原稿が集まりにくいのも会としての現状です。発送作業体制や内容充実のための体制作りが課題です。

 HPに関しては、予算化をしてメンテナンスを専門家にお願いし、最新情報は発信できるようになりました。しかし、最終的なリニューアルや地域のグループとの連携などの作業がまだ完全ではありません。月1回発送の会報では、緊急の取り組みや、各地の集会のお知らせなどをタイムリーに発信することが難しく、HPの充実、活用への取り組みが急務です。

 昨年度作成した就学前のリーフレットを自治労の保育集会で配布しました。早期発見・早期分離が進んでいる現状を変えていくためにも、リーフレットを有効に活用していかなくてはなりません。

 前述の障害者基本法のパンフレットは、多くの地域から注文がありました。全国連として文科省への働きかけもしていきますが、各地でこのパンフレットを活用して、教育委員会へインクルーシブ教育を進めていくための働きかけも必要です。

4.第15回全国交流集会

 11月19、20日、大阪で行われた第15回全国交流集会は、現地実行委員会の皆さんのおかげで、延べ300人を超える人が集まり、成功裡に終わりました。集会後に入会される方もあり、今年度は、数年ぶりにわずかですが、会員数が増加しました。

5.組織・財政問題

 運営委員会への参加者が多くなり、不十分ではありますが文科省交渉・全国一斉ホットライン等、総会で提起された活動に取り組めました。会員名簿のIT化への作業も始まりました。

 しかし、新会員が例年よりも多かったにも関わらず、財政は逼迫しています。会員数の減少や赤字財政の問題は解決されていません。会員を増やすための取り組みだけでなく、会員数に見合った支出にするための検討も必要です。

Ⅱ 2012年度活動方針案

1.最近の情勢から

(1)制度改革に関する状況

 特特委の出した、「障害のある子の就学先は、本人、保護者の意見を最大限尊重し、合意形成を行うことを原則とするが、総合的な観点から、最終的には教育委員会が決定する」という提言はそのままにされています。その上に、合理的配慮に関するワーキンググループのまとめでは、「合理的配慮」の定義が曖昧なだけでなく、「その決定・提供は、各学校、地域の財政面も勘案し、個別に判断することとなる」と書かれています。全国連30年の歴史は、全国各地で、個人が各学校と、地域のグループが教育委員会と交渉をしてきた積み重ねです。これでは、これまでの状況となんら変わりません。障害者権利条約や障害者基本法改正の理念が現実のものとなっていきません。

 障がい者制度改革推進会議は、「障害者基本法」の改正に続き、「総合福祉法」そして「障害者差別禁止法」の制定に向けて検討を重ねています。障害者基本法が推進会議の第二次意見と乖離があったように、「総合福祉法」も骨格提言とはかけ離れたものになりそうな状況にあります。会員の皆さんに呼びかけて集めた、教育における差別の事例を、差別禁止部会へ資料として提出しました。なんとしても「分離は差別である」ということを差別禁止法に明記させ、学校教育法等の改正につなげていかなくてはなりません。

(2)特別支援教育が浸透している中にあって…

 2007年度に始まった特別支援教育は、5年目を終えようとしています。障害のある子どもの教育は分離・別学が一層進行しています。

 新学習指導要領の完全実施にともない、学校の多忙化、能力主義による競争には拍車がかかっています。特別な支援というプラスイメージで語られるサービスの陰で、能率や効率を優先した学力至上主義の普通学級では、教員の余裕の無さが、子どもに対する許容範囲の無さにつながり、障害のある子はますます居辛い状況になっています。また、いつの間にか普通学級にいる「障害児」というと、発達障害の子のことが中心になってきている風潮があります。ホットラインでも、発達障害の子の相談が多くありました。地域で出されている障害者政策でも、その子たちへの対応について多く語られている傾向が見られます。その子たちが普通学級にいれば、その子たちが就職していれば、インクルージョンが進んでいると誤魔化し、障害のある子どもたちの中をさらに分離していこうとしています。

 私たちは、障害の種類や程度は問わず、どの子も共に地域の普通学級で学ぶことを求めてきました。しかし、ここ数年、障害の早期発見が早期分離へとつながり、障害の重いとされている子が普通学級を希望することが減ってきています。「子ども子育て新システム」が提案されていますが、その動向も見ていかなくてはなりません。

 このような状況の中で、共生共育(インクルージョン)は、障害のある子に限らず、今こそ必要なことです。地域で共に生きていくためには、小さい頃から共に学び育つことが大切であることは、大きな犠牲を出した東日本大震災の教訓でもあります。全国連の目指してきたことに自信と確信をもって運動を進めていきましょう。

(3)活動の活性化への課題

 運動をすすめていくには、全国連内部にも目を向け、その問題点を共通認識していく必要があります。
 会の活動の基本は、全国の「地域の学校で共に学び共に育つ」ことを求めている子どもや保護者を支え励まし、つながっていくことです。しかし、そのことが以前のように活発になされていないことは、会員数の減少にもあらわれています。
 全国連として、会報作りや事務局体制の問題、情報の共有化の問題、財政問題などについて、改善や強化を図り、活動の活性化へつなげていかなければなりません。

2.今年度の活動方針

(1)共に学び共に育つ教育を実現するための活動を進めていきます。

(2) 10月6日・7日に埼玉で開催される「『障害』児の高校進学を実現する全国交流集会」開催の成功に向けて、現地実行委員会とともに取り組みます。

(3)結成30周年のリレートークを活用し、活動を振り返ることを通して、新たな活動への原動力につなげていきます。

(4)全国連の運動に当初から関わってきた会員は、それぞれの地域で「生きる場、働く場」をつくって活動しています。普通学級でやってきたことが卒業後の生活にどうつながり、どのような展望があるのかを明らかにする活動に参加していきます。

(5)会報の年10回発行をめざします。全国各地の情報や地域の活動も紹介していきます。ブックレットの作成、ホームページの更新に努め、活用します。

(6)全国の会員、地域の団体と連絡を取り合い、相談・支援活動を行います。

(7)現在の運営委員会を中心とした会の運営を見直し、多くの会員、運営委員、世話人が参加しやすい運営のあり方を考えていきます。

(8)以上を通じて、会員の拡大と財政の確立を目指していきます。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2012年2・3月302号目次
2012年度活動方針(案)
2011年度収支決算書
2012年度予算(案)
修学旅行 親の付き添い廃止へ大きく前進―  帯広市 現地入浴介助員の配置予算化決定
28歳 粘る男
全国連発足30周年企画リレートークNo.8
「原則統合」への道すじを探る (1998年)研究集会を前後して私が感じたこと
追悼:熊谷さん
原発事故と障害児、そして脱原発
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戦いは誰のために その10 - 公立学校、普通学級に通う
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