障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2011年10月 299号巻頭文

改正障害者基本法を足がかりにインクルーシブ教育を進めよう

東京都・世話人 弁護士  大谷恭子

1.目的は「共生社会の実現」

8月5日、ようやく障害者基本法が改正されました。その内容は、昨年12月に障がい者制度改革推進会議がまとめた第二次意見がすべて反映されているとは言い難く、限界や課題があります。しかし、日本の法律に初めて「分け隔てられることなく」「共生社会の実現」「共に教育を受ける」ということが規定されたことは、意味あることです。

第一条に、分け隔てられることのない共生社会の実現を目指すことが目的として掲げられました。これが、この法律全体の目的です。ですから、教育もこの目的のもとになされることになります。これまで私たちが訴えてきた「共に生きる社会は、共に学ぶ教育から」ということが法律で示されたということです。

2.「共に学ぶこと」が教育の基本

十六条の教育条項の内容を詳しくみていきましょう。

1 国及び地方公共団体は、障害者が、その年齢及び能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため、可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ、教育の内容及び方法の改善及び充実を図る等必要な施策を講じなければならない。

障害のある子もない子も共に学ぶということが、教育の基本になりました。共に学ぶことに合理的配慮をしなければなりません。合理的配慮がなければ、差別です。「その特性を踏まえた十分な教育」は、障害の種類と程度に応じたということではなく、それぞれの一人ひとりの個性という意味です。それは「その」という文言に表わされています。

「配慮しつつ」というのは、共に教育を受けることを「原則とする」あるいは「基本とする」せめて「旨とする」という文言で表したかったのですが、それらを文科省が最後まで認めなかったなかから出されてきた言葉です。この言葉を目にしたとき、私はこれを「合理的配慮」と解釈していこうと思いました。「可能な限り」「配慮しつつ」ということは、最大限、合理的配慮をすることと同じことだという理解のもと、運動を進めていきましょう。

第一項は施策義務になっています。つまり共に学べるように配慮することが施策義務になったということです。国や自治体は必ず障害のある子もない子も共に学べるように配慮して、教育の内容や方法を改善するなどの必要な施策を障害者基本計画に盛り込まなければならないことになったのです。

2 国及び地方公共団体は、前項の目的を達成するため、障害者である児童及び生徒並びにその保護者に対し十分な情報の提供を行うとともに、可能な限りその意向を尊重しなければならない。

これは、議員修正で入った条項です。この意向尊重は、どこにかかるのかが問題になりました。私は「共に学ぶ」ことにかかってしまうことだけは避けなくてはならないと思いました。なぜならば、本人、保護者が求めた時には、共に学ぶことができるという法解釈になってしまうからです。大切なのは、選択するまでもなく、教育制度として、共に学ぶことが認められていなくてはならないということです。ですからここは、文言を丁寧に、「その目的を達成するため」と明確に規定しました。つまり、「その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため」というところにかかります。個別の支援を求めるとき、特別支援学校や学級を選択するとき、あるいは普通学級でそれぞれの支援を求めるときには本人・保護者の意向を尊重しなければならないということです。このことは、国会でも答弁されています。

3 国及び地方公共団体は、障害者である児童及び生徒と障害者でない児童及び生徒との交流及び共同学習を積極的に進めることによって、その相互理解を促進しなければならない。交流及び共同学習の規定は従来と同じです。文科省は、「共に学ぶことを推進するために交流及び共同教育を進める」としたかったのだと思います。それなら現行制度のままでいいわけです。共に学ぶことが交流教育と別れて規定されたことに意味があります。

4 国及び地方公共団体は、障害者の教育に関し、調査及び研究並びに人材の確保及び資質の向上、適切な教材等の提供、学校施設の整備その他の環境の整備を促進しなければならない。学校施設などのハード面だけでなく、ソフト面でもインクルーシブ教育を進めるための環境整備をすすめるということです。普通学級で共に学ぶための学校づくり、学校運営には、何が必要なのかを考えていかなくてはならないということです。

3.具体化していくのはこれから

分け隔てなく共生する社会を実現するための施策は、「障害者基本計画」で具体的に示されることになります。この基本計画を決めるときには、障害当事者や関係者が参画することになっています。障害者基本法の特徴となっているのが、32条で「障害者政策委員会」というものを、新たに設けるとしたことです。これは、国と都道府県の段階で義務づけられています。市町村の段階では任意になっています。ただし、この部分はまだ施行されていません。年度内には施行される予定です。障害者政策委員会の役割は、第一に、この基本計画等を策定するときに、意見を出すこと。第二に、この基本計画等を推進すること。第三に、この基本計画等が推進されているかどうかを監視することです。

今は、法律ができたということであって、具体的なことは何もできていないのです。参画・推進・監視の機能をもった障害者政策委員会をみなさんの住んでいる地域に設置するよう働きかけていくことが第一歩です。

障害者権利条約批准・インクルーシブ教育推進ネットワークは、全国連と協力して、障害者基本法を地域の運動に活用してもらうためのパンフレットを制作中です。来月号には、紹介できると思います。
障害者基本法を足がかりに、それぞれの地域の障害者基本計画に、これまで30年間培ってきた思いやノウハウを活かして、共に学ぶことを盛り込み、インクルーシブ教育の実践を積み上げていきましょう。

2011年8月12日 函館市七飯町
道南福祉ネット主催 「東日本大震災救援講座」での講演要旨

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

障害児を普通学校へ全国連絡会会報
2011年9月298号目次
改正障害者基本法を足がかりにインクルーシブ教育を進めよう
自治労保育集会に参加して
被災地からの報告震災を機に今できること
再びお尋ねします
第15回全国交流集会・分科会発題要旨―【第1分科会/第2分科会】
お便り ・夏恒例! キャンプ
    ・〝共に生きる〟再考
    ・戦いは誰のために その7―公立学校、普通学級に通う
●相談からコーナー ・子どもがなかなか落ち着いて授業に参加できないのですが
事務局から