障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2011年2月 293号巻頭文

今こそ、インクルーシブな教育制度への転換を
   ─障がい者制度改革推進会議、第二次意見をとりまとめる─

DPI(障害者インターナショナル)日本会議・事務局長  尾上浩二

昨年1月に始まった障がい者制度改革推進会議は、第二次意見をとりまとめた12月17日まで29回、会合が重ねられてきた。私自身その一員としてその対応に追われ、文字通り、推進会議に明け暮れた一年だった。
推進会議に参加するにあたり、「この機会に何としても変えなければならない」と考えた課題があった。その中の一つがインクルーシブ教育への転換だ。私は大学入学直後から障害者運動に関わり、今年で30年余りになる。子どもの時に施設、養護学校で過ごしたことが、その原体験となっている。

養護学校、施設から地域の学校へ

脳性マヒの障害をもって生まれ育った私は、小学校を養護学校、施設で過ごした。小学校5年から入所した施設では、あたかも医療の実験台のように手術が繰り返され、その度に歩けなくなった。ただ、その時の施設内学級の担任が「できるだけ地域の学校に戻したい」との立場だった。その教師の勧めもあり、中学から地域の学校に行くことにした。ただ、今から40年近く前で、大阪でも「共に学び、育つ教育」が始まる前のことだから、すんなり入学が認められたわけではなかった。
小学校卒業を間近に控えた3月に、養護学校の担任に付き添われて、地元の中学校との話し合いに行った。その時対応した中学校長は、会うなり、「この学校には階段もあれば段差もある。松葉杖で移動してひっくり返ったらどうするのか?」と聴いてきた。その時の、いかにも「場違いな子どもが来た」といわんばかりの視線が忘れられない。
その後、再度、話し合いをもって何とか入学が認められた。その際、「普通学校に入った限りは、『特別扱い』はしない」と言われた。今でこそ、「合理的配慮」という言葉も知られるようになり、「障害故に必要な配慮を行ってこそ平等に扱うことになる」という考え方も広まってきた。しかし、今から40年前には、そうした発想のかけらもなかった。「特別扱いしない」とは、学校側は何もしないという意味だった。
それで、私の親に対して念書を書くことが求められた。「階段の手すり等の設備は求めません、先生の手は借りません、周りの子どもたちの手は借りません」というのが、入学の時の条件だった。
そうして何とか入学した普通中学では、授業の進む速さなどで当初戸惑うこともあったが、自分の世界が大きく広がるきっかけになった。特に、家の近所に同学年の子どもがいることを知ったのは新鮮な驚きだった。小学校の時は、スクールバスで1時間あまりかけて養護学校に通い、入所施設にいたっては24時間地域とは全く違う場所で生活していた。そのために、家の近くの子どもと出会う機会がなかったのだ。だから、養護学校の時は帰宅しても、ぽつねんとテレビの前で過ごしていた。ところが、地域の学校に通い始めると、家の近くに同学年の子どもがいて、下校の途中に買い食い等を一緒にしたりした。そして、入学時には「周りの子どもの手を借りないこと」が条件だったが、実際には、音楽教室の移動等の際に、同じクラスの子が自主的に手伝ってくれた。

今こそ、インクルーシブな教育制度への転換を

こうした体験があったからこそ、「自分たちがしてきたような苦労を、次の世代の障害のある子にはさせたくない。当たり前に地域の学校で学べるようにしたい」との思いで、推進会議で発言してきた。
推進会議では、現行の原則分離の教育制度から、障害のある子とない子が共に学ぶことへの転換を求めている。そのことに対して、「推進会議には教育の専門家がいない」「理念先行の性急な改革は現場に混乱をもたらす」といった「批判」が、その筋の関係者から繰り広げられてきた。
「専門家がいない」というが、推進会議の過半数は障害当事者だ。その中には、私をはじめ、これまで進められてきた障害児教育の経験者もいる。一方、中教審のもとに「特別支援教育の在り方に関する特別委員会」が設置されたが、その中である委員から「障害児が普通学級で学ぶ時に、周りの子どもたちに過度な負担がかからないように、障害児が行うのが合理的配慮」とする珍説が飛び出し、傍聴していてのけぞりそうになったこともあった。
また、「理念先行の性急な改革」というが、1970年代から「共に学び、育つ教育」を希求・実現する活動が繰り広げられてきた。ノーマライゼーションが提唱された国際障害者年から数えても30年になる。そして、推進会議でも資料配布を行い紹介したが、大阪府・東大阪市のように、「障害のある無しにかかわらず、まずは地域の小中学校への就学通知を出し、希望する場合は特別支援学校を選べる」という仕組みにしている自治体も出てきている。決して、無理なことを言っているわけではない。
これから、第二次意見を受けて障害者基本法改正案がとりまとめられ、国会で審議されることになる。この中でしっかりとインクルーシブな教育制度が盛り込まれ、その後の学校教育法や施行令等の改正につながっていくことを期待したい。

この原稿をいただいてから、次の「障害者基本法改正案に関する声明」にあるように、2月14日の第30回の推進会議で内閣府から「障害者基本法の改正について(案)」が提示されました。しかし、教育の部分については、ほとんど現行法と変わりませんでした。(編集部)

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

障害児を普通学校へ全国連絡会会報
2011年2月293号目次
巻頭 今こそ、インクルーシブな教育制度への転換を―障がい者制度改革推進会議、第二次意見をとりまとめる―
障害者基本法改正案に関する声明
2011年度世話人会・総会に向けて
  2011年度活動方針(案)/2010年度収支決算書/2011年度予算(案)
インクルーシブ教育の実現に向けて 【法改正を求める 連続院内集会vol.3報告】
全国連学習会(2月5日)に参加して
パブコメ紹介 その1
書評
「『共に学ぶ』教育のいくさ場─北村小夜の日教組教研・半世紀」(志澤小夜編・現代書館)を読む
投稿 【宮城県障害児教育将来構想の現状‥‥ 17】
相談からコーナー 【他の子と差が出て、子どもがやる気をなくすと言われたが】
事務局から
要望書